恐怖、メロンの種

 生ハムメロンが死んだ。

 正しくは腐った。

 所詮植物である。


 役人が生ハムメロンの仏壇に手を合わせてから、生ハムメロンの遺体を引き取って行った。

 それはいいからこの仏壇持って帰れ。

 だが役人は仏壇を置いて行きやがった。

 一体なんの嫌がらせだ。 


 ◆


 生ハムメロンが死んで数日。

 俺は毎晩うなされていた。

 聞こえるのだ。

 夜な夜な俺の耳元で生ハムメロンの声が。

 そう、今夜も。


 メローン……


 来た!

 毎晩の様に聞こえる生ハムメロンの声にうなされていた俺は部屋の四隅に盛り塩をした。

 だが効果は一切無かった。

 そう、効果は。

 しかし盛り塩は俺に重大なヒントを与えてくれた。

 朝、目が覚めた時に俺は盛り塩が効果なかった事に落胆した。

 所詮はただの塩か、せめて神社かどこかに頼んでお払いをしてもらえばよかったと。

 そんなふうに落胆した俺だったが、部屋の一辺におかれた盛り塩を見て考えを改めた。

 盛り塩が倒れていたのだ。

 驚いた。

 だってそうだろう? 幽霊が相手なら盛り塩が倒れるなんて事ある訳ない。

 仮にポルターガイストだとしたら、倒れるのは盛り塩だけではすまないからだ。

 誰かがいる。

 誰かが俺の部屋に忍び込んで生ハムメロンのフリをして俺を衰弱死させようとしているのだと。

 その事実を知った時、俺は戦う事を決意した。

 相手が幽霊でないのなら、ストーカーだろうが泥棒だろうが恐れる事は無い。

 俺を狙った理由は分からないが、そんな事は捕まえてから聞き出せば良い。

 プロのメロンハンターを狙った事を後悔させてやる。


 ◆


 メロー…………

 音の発生源を探して部屋の隅へ移動する。そして少しずつ動いて音の一番大きい場所を探るのだ。

 メローン

 ここだ!

 俺は電子レンジを構え、音が最も大きい場所、すなわち押入れを開けた。


「大人しくし…………ひぃっ!?」


 そこにはダレもいなかった。

 俺の金を狙う泥棒は影も形も無く、さりとて生ハムメロンの幽霊がいる訳でもなかった。


 居たのは大量のメロンの種達だった。


『めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん』


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 俺は逃げた。全力で逃げた。

 履くものも履かず裸足で逃げた。


 ◆


 後日、役人達は嬉々とした顔でメロンの種を引き取っていった。 

 俺はというと、その部屋に戻る事はなく、部屋の中の品は全て業者に処分してもらい、別の部屋を借りる事にした。

 その後風の噂で聞いたところによると、俺の借りていた部屋から夜な夜なメロンの鳴き声がするという都市伝説ができていたらしい。

 そして今でもその鳴き声は聞こえるのだと言う。 

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