第731話 第3章 1-5 現実世界の為政者二人
カンナに似た翠色の眼で問われ、アーリーが何と答えようか迷っていると、
「び、びっくりするじゃねえか、いままでさんざん寝ておいて、眼がさめるんならそう云えよ!」
レラがまくしたてる。今度はマイカが驚いてレラを見つめた。そして、その正体をすぐさま看破する。
「ついに……人はこんなものまで造ったのですか」
「てめえ、こんなもので悪かったな!!」
ガリアを出さん勢いだったので、アーリーがレラを止める。
「マイカ、おまえ自ら目覚めたのか?」
「貴女は赤竜ですか?」
「そうだ」
「自ら……そう、自ら目覚めました。ということはつまり……」
そのまま、歌でも歌うような仕草で手を上げ、うっとりとした表情で止まる。レラが眉根をひそめて怪訝そうな表情でそれを見やり、マイカが止まったままなのでアーリーを見た。アーリーもどうしてよいか掴めず、思わず困った顔でレラを見る。
「アーリー、こいつ、おかしいぜ。だいじょうぶかよ」
云いにくいことをズバリ、レラが云ったのでアーリーが思わず笑みを漏らした。
「ま、我らは何かしら狂っている。私も、お前も、カンナもな」
レラも鼻で笑った。
「ちがいねえや」
アーリーがその炎を背に前へ出る。
「マイカ。
「なんでしょう」
「出番だ」
マイカの顔が、少しだけ引き締まる。
マイカの目覚めは少なからず
アートも
「立場を忘れるなよ。ウガマールの政務が滞っている今、お前がここを離れるわけにはゆくまい」
とアーリーに諭され、断念した。
「そのまま、聖地へ行くのか?」
「そうなるだろう」
「帰ってくるのか?」
「二度と会うことはあるまい」
アーリーがはっきりと云う。アートは無言で拳を突き出した。アーリーが軽く拳を合わせ、アートの執務室を出た。アートはさすがにその後姿を反芻し、感慨にふけるほかはなかった。是非はともかく、もう二十年近くも共に計画を遂行してきた仲だ。そして、アーリーがああ云うのであれば、カンナとももう二度と会うことはないだろう。
三人が密かに奥院宮を出てしまってから、アートを神官長となったムルンベが尋ねた。
「行ったのか」
「はい」
神官長はもともと権威のみの職種で、裏で絶大な権力を行使していたクーレ前神官長が異常だっただけだ。それは在位期間の長さと、クーレ前神官長の野望のなせる業だった。ムルンベはいざ自分がなってみて、その仕事の少なさに驚いた。
「世界はどうなる」
「わかりません」
レラがカンナに勝った場合、レラを使ってウガマールと南部バスマ=リウバ王国を併合して南部大陸を支配しようという野望を抱いていたムルンベだったが、レラの敗北によって全てが水泡に帰した。同じ野望でも、クーレ前神官長とは執念が違ったか。
「けっきょく、狂ったストゥーリア人の思惑通りに進んでいる」
ムルンベの顔が忌ま忌ましげにゆがむ。「狂ったストゥーリア人」とはレラに殺されたクーレ前神官長のことだ。
「そうかもしれません」
「死してなお世界の趨勢を握るとは、敵ながら天晴れ! ……と云いたいが、私にそんな余裕も懐の深さも無いぞ、アート」
「そうでしょうね」と云いかけて、アートが苦笑する。ムルンベも苦く笑った。
「さ、我々下々は、日々の暮らしを続けよう。明日も昇任者の選定だ」
「はい」
いま、二人はウガマールの表も裏も組織の改変に着手していた。カンナが勝つか、負けるか。新しい神の時代か、竜神が直に現世を支配する超古代社会の復活か。なんにせよ、ウガマールはそれへ対応してゆかなくてはならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます