第721話 第2章 6-5 紫禁星天竜騎銃

 それでも、バグルス達は自動的に攻撃してくる。聖地のバグルスは感情がない。無感情だ。サラティスの周辺や北方に出ていた低完成度バグルスは、ここに比するとまったく不完全な失敗作のようなものなのに、口をきき、時には泣くほどの知能や感情があった。ここ聖地のバグルスは、知能どころか魂魄がない。まるでロボットだった。


 「ウワアッ!」 

 カンナがついに足を止めた。きりがない。数が多すぎる。

 「ええいッ!」


 特に、数十体に一体の割合でいる重戦闘型バグルスは厄介だった。カンナの通常攻撃では、一撃で倒せない。ガラネルや、ホルポスの母親であるカルポスが造った高完成度バグルス達……ブーランジュウやミヨン、シードリィですら一撃でその肉体を破壊したカンナの雷撃を食らっても、平気で迫ってくる。二発目で足を止め、三発目でようやくその肉体が衝撃で砕け散った。ここはガリアの複合攻撃が有効な場面だったが、スティッキィとライバは後方で先ほどの攻撃の生き残りと戦って支援している。


 (アーリー!)


 ここにアーリーがいてくれたら、どれほど心強いことか。どれほど助かったか。やはり、ラズィンバーグでアーリーを待つべきだった! アートが危篤だなどと云う今は亡きクーレ神官長の下手な欺瞞情報にのせられ、と独りでウガマールへ行ってしまった浅はかさが、ここに来て自分を苦しめるとは……!!


 自分の馬鹿さ加減が自分の首を絞め続けていることを、否でも自覚する。


 しかし先ほどの大攻撃は、おそらく最後の一撃まではできまい。我ながらそれほどの威力と、自分への反動だった。ここは、地道につぶし続けるしかないのだ!


 しばしカンナ、無限に湧き上がるバグルスどもを一匹ずつ倒し続けた。幸い、息切れするほどの肉弾戦はなかった。また後方からの追撃も少ない。スティッキィとライバがうまく連携攻撃でバグルスたちを倒しているのだろう。


 (……ありがとう……二人とも……)


 また、そうこうしているうちに、さらに一段とガリアが軽くなるのを感じた。きっと、もう一つガリア封じをマレッティやパオン=ミたちが破壊した気がした。


 「ウアア!」

 それをきっかけに、カンナが攻勢に出た!


 道の行く先へ雷撃を集中し、一気に得意の音響衝撃波を利用した突破で前に出る。バガーン!! 炸裂音がして小型バグルスが宙を舞い、重戦バグルスも動きを止められその隙にカンナが点のように見える距離までぶっ飛んだ。


 着地し、そこから走りに走って、緩い坂を下りるかっこうとなって丘を進むと、もう、向かって左へ曲がった岬が見えてくる。その先の湖面には、目指す小島もあった!


 カンナの視線が小島へ集中する。まるで獲物を見つけた猛禽のように。

 だが……。


 嫌でも、その視線が道の途中にぽつんと立っている人物へ動いた。バグルスではない。


 ガラネルだ!


 不思議な装束を身にまとい、髪も簪で飾りつけているが、独特の長袖を襷にかけ、細いがしっかりした肉付きの腕を左は腰につけ、右手は何かを肩に担いでいる。


 ガラネルのガリア「紫禁しきん星天せいてんりゅうじゅう」であった。


 そもそもカンナとガラネルの戦いは第五部で述べてある。しかし、あのガラネルは実は高完成度バグルス・パルランクによる影武者だった。ガラネルはガリアを遣うバグルスまで製造していた。それを戦いの後にパオン=ミより聴いたカンナ、ピンとこずにそのまま流していた。


 しかし、改めて見るとその存在の違和感を感じざるを得ない。あれも偽物ではないのか?


 「ウアアア!」


 眼が蛍光翡翠に光る。ガラネルとの共鳴を探し、黒剣が地と大気を震わせてガラネルを探る。


 バアン! 再び音響弾! カンナが地を跳ね、大きく低空飛行しながらガラネルへ迫る! 相手は銃だ。距離を詰めなくては勝負にならない。ガラネルはニヤニヤした顔のまま、同じくその目が蛍光紫に光りだした!


 「カンナアア!」


 高速で一直線に迫るカンナへ向け、ガラネルが竜騎銃を連発! 音響の塊がカンナを覆うようにして護り、その弾丸を難なく弾いたが、ガラネルのガリアの力は銃そのものではない。この銃声が死者を呼び起こす……それは人間だけではない。魂のないバグルスですら、その肉体が仮初の生を得て動き出す。しかも、木っ端みじんに砕け、潰れ、ひしゃげ、焼け焦げた死体や死体の一部がひとりでに動いて合体し、さらに大きなバグルスゾンビとして復活し、まだ生きているバグルスと合わせてカンナへ向かう。


 カンナはそのままガラネルを倒してしまおうと、銃弾をものともせずに突っこんだ。

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