第714話 第2章 5-3 対バグルス戦
悲鳴を上げてスミナムチがミナモへしがみついた。
三人を囲う大光輪がうなりを上げて空気を裂き、マレッティが前に出たが光輪がそれへ合わせて一回り大きくなり、バグルスをとらえた! バグルスは悲鳴も無く両腿の辺より切断され、そのまま地面へ転がった。躊躇なくマレッティが細剣を振りかざし、至近距離から光輪を叩きこんでその上半身をズタズタにした。
大量の血を噴き出し、流石の重バグルスも動かなくなる。
「ハハハ! すごいな!」
ミナモが楽しそうに笑い、スミナムチは卒倒しそうだった。
「お楽しみのところ悪いんですけど、余計な動きはナシでお願いねえ! つかず離れず、光輪から出ないでよお!」
云うが、サラティス語なので二人には通じない。
周囲には大型の重戦闘バグルスが二体、それに兵卒バグルスに似ているが完成度は高そうな小型のバグルスが一、二、三……十体以上いる。全てバグルスで、人間の衛視や忍者はいない。
「それならそれで!」
パオン=ミ、自らの周囲へ符をばらまき、火炎弾の数珠のようにして浮かび上がらせるとそのままバグルスたちのど真ん中へ突っこんだ。まるで自爆攻撃だ。
「パオン=ミ!」
マレッティが援護へ入る。あまり速く駆けると二人を光輪から外してしまうので、じわじわと相手を誘う。
その駆け引きは、流石にバグルス戦へ特化したサラティスのカルマだ。
少しよろよろと歩いてこちらの弱みを見せ、方向を変えて引く体勢を見せるとバグルスは本能で襲ってくる。対バグルスカウンター戦とも云える戦法は、カルマの得意技だった。
マレッティが二人を庇いつつ、パオン=ミを援護しようとして断念し、逃げるように隙を見せるとすかさず数体の小型バグルスがマレッティの光輪めがけて走りこんできた。まるで、火に群がって自ら焼け死ぬ蛾だ。
すかさず光輪が回転を始める。
ガリアの通じる間合いが近いが、マレッティは元より近接戦闘が得意だ。殺気が光輪と重なり、三人を隠してしまうほどに幾重にも大光輪が現れて目つぶしとなり、バグルスたちの足を止める。そこへ体当たり気味にマレッティが攻撃をしかける。
「ヒィイ!」
悲鳴を上げたのはスミナムチだった。マレッティの光輪スライサーの威力たるや! 甲高い音をたててバグルスを一瞬にして輪切りにしてゆく。光の向こうからビシャビシャと返り血が飛んできて、スミナムチの顔やメガネにかかったので悲鳴を上げたのだ。
「ヌゥア!」
マレッティがさらに気合を入れ、剣を振りかざす。何十という大小の光輪が周囲にばらまかれる。勢いが余って効果範囲を越えて霧散するものもあるが、かまわず出し続ける。
たちまちのうちに、小型のバグルスの五、六体は再起不能もしくは絶命せしめた。
パオン=ミの炎弾も、一つで人間など粉微塵に爆破する力がある。ましてバグルスとはいえ竜相手では特効がある。それが十以上も数珠つなぎとなり、相手を襲う。対々ガリア封じ波動の間合いが狭いが、向こうから近づいてきてくれるのだから苦労はない。間合いが近すぎて、遠隔攻撃を想定している炎術では自分も熱いというだけだ。
「ハイヤア!」
気合と共に屈伸に近い低い姿勢から両手を怪鳥めいて振りかざすと、炎が乱舞! 大ジャンプで跳びかかってきた小バグルスへまとわりつき、ボァ、ボァ、グボォア!! 一気に数体が爆裂して砕けちった。
自分の飛び火を浴びぬようパオン=ミが地面を転がる。しかしガリア封じの打ち消し波動の範囲外へ出てしまうと途中で燃焼が止まってしまう可能性があり、ぎりぎりで間合いを見切った。だが危ない。自分の火で焼け死ぬのは御免だ。ガリアであるので、意識してやろうと思えば自らの火は自らへ無効という現象も可能なのだろうが、これまで自分の火に焼かれるなどと云う発想すらなかったので、そのような効果を特訓したこともない。現実は、自分の炎はこんなに強力だったのかと認識して喜ぶやら、後悔するやらというところだ。
「パオン=ミ! デカブツが行くわよ!」
魂を抜かれ、自動攻撃生き人形と化している重戦バグルスにしても光輪は厄介だと認識したものかどうか、二体が足音も竜めいて二方向からパオン=ミへ向かって走る。マレッティが援護しようとしたが駆けよると二人から離れるし、光輪を飛ばすも対ガリア封じ効果場の範囲外に出てしまって霧散した。改めてこのガリア封じの仕掛けに舌を打つ。なんたる厄介さか。
せめて残る雑多を少しでも減らそうと間合いの届く限りで周囲の小型バグルスへ光輪を叩きつけた。別にすべてを輪切りにする必要もない。かすっただけでも、ガリアの特効で心臓まで切り裂かれる。心臓を切り裂かれてもしばらく生きているのが流石にバグルスだが、大量の血液を噴き出して動きは格段に鈍くなる。二撃、三撃めで首を飛ばされ、あるいは胴斬りにされるとさしものバグルスも動かなくなる。
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