第684話 第1章 5-1 菜っ葉
「それが、今月の三十一日ってわけねえ」
「で、場所がこの小島、と」
「作戦に戻るぞ」
皇太子が云い、博士がいよいよ当日までの一行の役割と当日の行動を示す。
「私と
パーキャスでの遭難をいやでも思い出し、カンナは身震いした。そもそもカンナのガリアは水に相性が悪い。
「陸を行きたいです。いや、陸じゃないとだめです絶対」
一同が、いかにもいやそうな顔のカンナを見やった。世界最終決戦へ行くというより、
「……ええと、問題は、バグルスが大量に待ち受けているでしょうということですが。なにせ、聖地はバグルス技術の本場なので」
「カンナちゃんのガリアが完全復活したら、高完成度と云えどもバグルスの百や二百は相手にならないと思うわあ」
これはスティッキィだ。あのレラとの戦いを思い出してそう確信する。
「それに、あたしとライバの補佐もあるし……足手まといになるかもだけど、いちおう」
「その、そちらの方々の、そのガリア封じの機構? どういうものかわかりませんが、そちらの破壊はお二人で大丈夫なんですか?」
「こちらにも、強力な
これは皇子だ。
ライバがうなずく。だんだん概要が見えてきた。
「殿下は、どうされるのですか?」
「余か? 余は、ここで何食わぬ顔で待っておる。世界の革新を信じてな」
皇太子は云うや、笑顔でカンナを見つめた。カンナは、どうして見つめられているのかわからず、呆けた表情を見せる。
「で、陸路の場合、尾根伝いに岬まで散策路があります。そこ以外を行くのは、物理的に困難です。徒歩で、一刻半ほどかかります。襲撃予想地点はここと、ここ。あ、ここも危ないです……」
作戦会議は、明け方近くまで続いた。
5
打ち合わせから三日ほどはカンナも緊張していたが、なにせ普段は風光明媚な観光地だ。帝都にいたころとほとんど変わらない暮らしに、何に緊張しているのかも分からなくなってくる。五日、七日と経つにつれ、すっかり倦んでしまって自堕落に日々を送っていた。
「敵さんはそこを狙ってくるだろうから、油断は禁物ですよ、カンナさん」
一人、ライバだけが気を張っていた。
「う、うん……」
豪勢な夕食を食べながら、カンナが生返事。
迎賓殿では皇太子の連れてきた調理人がおり、こちらの食材で宮廷料理を作っていたが、ホレイサンの凄腕料理人もホレイサン料理を造って供していた。特に珍しいのが特別に新鮮な生の魚を切り身にして醤油などの調味料をつけて食す料理で、とうていディスケルでは考えられない。それは水の清浄さや淡水魚と海水魚の違いであったが、けしてディスケル人もカンナたちも口にしない。それが分かっているので、ホレイサンの料理人も焼き物や煮物、揚げ物がメインとなった。あと、あまり肉を食べない。食べてもキジやツル、ウズラ、ヒヨドリなどの鳥肉だった。意外や、ウサギ肉もあった。意味が分からないが、ウサギは獣であるが食肉としては鳥の仲間として扱われているという。
「それより、野菜が美味しいわねえ」
スティッキィはそちらに感心していた。
「ウガマールでも野菜や果物が美味しかったけど」
ホレイサン料理は野菜と魚が主で、春キャベツ、オクラ、ソラマメなどの、出だしの夏野菜が大量に出てきた。煮物、揚げ物、素焼きなどだが、野菜自体の味が濃く塩ゆでや素揚げでもうまいし、調味料の種類がふんだんでそれらの組み合わせが絶妙だった。ホレイサンはディスケルと比べて基本的に味付けが薄く、さいしょは戸惑ったが野菜や魚の味が濃いのでそれを引き立てるための味付けだと分かるとうまく感じた。
「この菜っ葉なんて、菜っ葉のくせにやけに美味しいわよお。なんていう菜っ葉なのかしら……」
それは菜の花に近いアブラナ科の菜っ葉だが、その煮浸しをスティッキィは特に好んでいた。この菜は、ディスケル料理で油炒めにしたものもうまい。その他、ホウレンソウやチシャ、聖地特産のピパ菜など、何種類も菜がある。
「スティッキィ、菜っ葉はいいから」
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