第685話 第1章 5-2 ゴミはそれなり
「このキャベツの柔らかさも信じられないわあ。すごく甘いし。スターラじゃ、こんなキャベツ見たことないわあ」
キャベツは、ここ数十年でガラン=ク=スタル経由でスターラことストゥーリアから伝わったらしいのだが、別物である。品種改良技術が凄い。
「キャベツもいいから!」
ライバ、気が気でない。だがスティキィはどこ吹く風だ。
「あと六日でしょお? 仕掛けてくるかしら」
スティッキィは、仕掛けるならこちらの準備が整わないうちで、具体には聖地へ入って三日以内と観ていた。それが無かったので、もう当日の迎撃に全てを賭けるのが常道というのである。
「いや、ぎりぎりまで分からないって。特にこっちの気が緩んだ時が攻め時だよ」
ライバは、そろそろだと睨んでいる。
「どうして、こっちの気が緩んでるってわかるのよお」
「ここはどこだ? いくら迎賓殿内は治外法権だからって、あたいなら間者の一人二人は置くよ」
スティッキィがピタリと黙る。確かに、ここには聖地やホレイサンの人間も多く働いている。
「そうかしら……ね」
「わざと気を緩めて攻めさせて、返り討ちにする手もある……けどね」
「いや、だからさあ、こっちはこの建物の敷地内にいるかぎり、ガリアが遣えるわけでしょお? それなのにわざわざ来るかってえのよ。まして、カンナちゃんの力を知ってて」
「誰でも裏くらいはかくだろう」
ようするに、読めない。
翌日の夜。
深夜、漆黒の中でスティッキィが眼を醒ました。
ガリアの力で闇を見通すと、隣の布団でカンナがすやすやと寝息を立てている。
その向こうのライバは、既にいない。
(さすがね……)
スティッキィも起き上がり、素早く着替えつつ、カンナを起こす。既に三人はいつ何が起きても動けるよう、衣服だけは皇太子妃に仕立ててもらったサラティスの竜退治の姿で通していた。
「カンナちゃん、カンナちゃん、起きてちょうだい……」
「ん? んあ……なに?」
「早く……ライバの読みが当たったみたいよ」
「はえ?」
カンナが半分寝ながら、もそもそと枕もとへ置いておいた服へ着替える。
微かだが、正面より音がする。既に侵入を許したか。それにしても静かすぎる。よほどの手練れか、それとも。
「……警護がすんなり通したか……」
既に迎賓殿の警護官は聖地の手の者と考えるのが妥当だ。
「カンナちゃん、行くわよ」
「ま、待って……」
しかしスティッキィ、楽し気に残忍な笑みを浮かべた。
「カンナちゃんもそろそろ、ゴミはそれなりの力で払う技術を身につけないとねえ」
「ええ……?」
カンナは、まだ眼鏡を探している。
二人は闇の中をスティッキィが先導して歩き、正面へ向かった。廊下を照らしているはずの明かりが全て消されている。殿内の人間が消したのだ。
「やっぱり内通者がいるわね」
念のため、ガリアを確認する。闇の星が手の中に現れる。迎賓殿内は自衛のためガリアの使用が認められている!
(と、いうことは、向こうにもガリア遣いが……)
廊下の隅へ身を潜めつつ、気配をうかがう。すると、忽然と近くに何者かが現れる感覚がした。二人には御馴染だ。ライバが瞬間移動で現れたのだ。
素早く結果だけ報告する。
「皇太子さんはディスケルの警護がつくから、とりあえずあたいらはあたいらの身を護れってさ」
「そりゃ、狙いはカンナちゃんだからねえ」
「でも、手早くやらないと、逃げる置き土産に皇太子さんを狙う可能性も」
「は! 逃がしやしないわよお……」
スティッキィの眼が暗殺者のそれとなって闇に光る。ライバも、闇の中へ既にその人間を解体する大型ナイフを鈍く光らせていた。ガリアにこびりついた血の臭いが立ちこめる。
「問題はカンナちゃん……あまり目立っちゃだめよお。その日まで、温泉町に住んでいる人をあまり巻きこみたくないし」
「なにせ、音がしますからねえ」
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