第680話 第1章 4-1 聖地到着
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どこかの建物の
その日もよく晴れている。通りは既に見物客でいっぱいにあふれ、通りへ入れない人々は近所の屋根の上から見物する。
三年ぶりにディスケル=スタルから皇太子の行列が聖地ピ=パへやってきたのだ。
ミナモはまた水干に烏帽子姿で、スミナムチは藍の小袖に灰縞の
「
高いところが苦手なスミナムチ……アラス=ミレ博士が、ガクガクと震えながら本堂大屋根の峰をはいつくばっている。冷や汗で、メガネがずり落ちそうだ。
その数間前を、忍者めいて軽々と歩くのはミナモ……「
「いやなら降りておれ、博士。無理について来ぬでも……」
「だ、だって皇子様が……」
「余がどうした?」
その場で皇子がひょいと跳び上がり、そのまますとんと尾根の上へ座った。
「ヒイィッ!!」
肝を冷やした博士が縮み上がる。皇子がそれを見て笑った。
「よい大人が小便をもらすでないぞ」
「な……!」
顔を赤らめ、なんとかはいつくばって皇子の隣まで来た博士だったが、とても座るなどとはできない。上から見下ろすと、すごい傾斜で大屋根が眼下に広がっている。眼がくらんだ。
「う、うう、うぅ……」
じっさい、少し漏らしてしまった。
「ほれ、来たぞ」
狂皇子が遠眼鏡を出す。博士もそれへ続いたが、手が震えて腰帯へたばさんでいた遠眼鏡を落としてしまった。
「あっ……!」
というまに遠眼鏡は本堂の屋根を転がり落ち、雪止めへひっかかった。
「なにをやっておる。あとでちゃんと回収せよ」
「そ、そんなあ……」
博士が泣きそうな声を出した。
狂皇子は楽しそうに湖岸の
その侍従の中に、三人の女がいた。侍従というか、侍女だ。云うまでも無く、カンナとスティッキィ、ライバだ。ここまで陸路により約二十日をかけ、帝国を構成する諸藩を行啓しつつやってきた。竜による空路を使えばもっと早く来られるが、この人数を全て飛竜で運ぶのは逆に難しい。なにより金がかかる。
三人は旅に疲れた様子ではあったが元気そうで、行列の中より物珍し気に聖都の街並みを見物している。明らかに異邦人の顔つきなので目立つのだが、なにせ皇太子の随行なのでだれも気にしていない。きっとここまでの行程でもそうだったのだろう。行列に異邦人数人がまぎれていようとも、皇太子のほうがはるかに重要で誰も気が向かないのだ。
「考えおったのう」
狂皇子が笑う。遠眼鏡を無邪気にはしゃいでスティッキィと談笑するカンナへ向けた。
「しかし、
また、皇子の顔が妖狐めいて嗤いにひきつった。
「み、皇子様、私にも見せてください……」
狂皇子より遠眼鏡を受け取り、博士もカンナを見やる。
「……ふうん……」
「どうだ?」
「たいしたものですねえ。よくできてますよ」
「わかるか?」
「わかりますとも。……嫉妬するくらい、うまく調和しています。すなわち、肉、気、魂魄……
「そのようだな」
笑みの中に、狂皇子の眼が狂気的に光をたたえた。
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