第8部「神鳴の封神者」
第667話 第1章 1-1 神代の入口にて
第一章
1
時系列はやや戻る。
およそ千数百年ぶりにウガマールに開いた
「カアンナちゃああああん!!」
「カンナさん、カンナさーん!」
とにかく叫ぶ。何度も。何度も。叫び続ける。
「カンナちゃアアアン! カアーンナーちゃーーーん!!」
「カンナさん、カンナさあん!!」
「カアアアアンナちゃああ……!!」
スティッキィが
「カアアンナちゃああん、まあってえええーー! カンナアアアーーー!!」
転びかけて膝をついたスティッキィが、泣きながらわめいた。
「もうううう置いてかないって云ったじゃないのよおおおおおお!!」
その悲愴さにライバも涙ぐむ。スティッキィのカンナへの想いがこれほどとは……。
「カンナさああああああん!!」
ライバもとりすますのを止め、声の限りに叫んだ。何重にも洞穴の奥の奥まで声が響いたが、カンナの姿はどこにもない。
「どおしよお……」
がっくりと膝から崩れ、スティッキィがグズグズと泣き出した。
ライバが歯をくいしばる。スティッキィを立たせ、
「行こう。限界まで歩き続けるんだ。どこまでも! 行こう! カンナさんに着いてゆくんだ!」
二人は歩行を再開し、かつ歩きながらひたすら叫んだ。やがて声も枯れてくる。もう何刻歩いたか全くわからない。実は大して歩いていないのかもしれない。行く先も戻る道も永遠に狭い洞穴だった。蝙蝠すらいない。いや、虫すらいない。何もいないのだ。
「……カンナちゃあん……カンナ……カンナチャン……カンナあああ……アアアアア……」
スティッキィはもう喘ぎながら虚ろな目でブツブツつぶやくだけになってしまった。元より壊れている精神だ。脆い。
ライバはしっかりとスティッキィの肩を担ぎ、とにかく歩き続けた。
その甲斐あってか……。
ふと、洞窟の先が開け、広い空間になっている。二人は思わず天井を見上げた。真っ暗だった。何も見えぬ。
「あれえ? 二人とも……」
悲鳴にも似た金切り声でスティッキィが弾けるようにして駆け、カンナへ抱きついた。もう言葉にならぬ。ひとしきり泣いた後、
「なあああんでいっつもいっつもいっつもいっつも置いてくのよおおおおおお!!」
子供みたいに癇癪を起して地団太を踏み、暴れはじめた。
「ご、ごめん、てっきりすぐ後ろにいるもんだと……」
「声が聞こえませんでしたか?」
「いや、特に……」
カンナが不思議そうに二人を見た。話を聞くに、カンナは「神代の蓋」から入ってすぐにここへ出たのだという。
「どうなってるんだろう?」
ライバも首をひねった。空間が歪んでいるのだろうが、流石にそこまでの認識がない。
その三人をいきなり呼ぶ人間がいたので、三人は飛び上がって驚いた。
「ちょっと、早く、こっちこっち!」
「!?」
見やると、暗闇の向こうにうすぼんやりと光に包まれて、人が立っている。三人は当然硬直していたが、
「早く! 急いで! 時間が無くなっちゃうわよ!?」
ぴょんぴょん跳びはねながら手招きをしているのだった。仕方も無く、三人が近づく。
「だ……だれ!?」
スティッキィがひきつった顔で尋ねる。刺繍も豪華なディスケル=スタルの古い竜騎兵の着る服に由来する絹の高級装束に身を包み、竜を象った金の
「まあ~、まあまあ、いやはやいやはや、ようやく来たのねえ。それも、本当に来ちゃうなんてねえ」
年のころは二十代中頃から後半に思えた。背が高いが、アーリーほどではない。いやデリナよりやや小さい。が、ガラネルよりはずっと大きい。アートほどか。体格もよく、髷を結った黒髪がカンナのように微細に闇の中でかすかな光を反射して
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます