第577話 第3章 5-2 共鳴の戒め

 そのカンナの頭上で、岩山がバガッ、バガンと破壊され、そのまま多数の巨大な割り石となって落ちてきた。カンナは悲鳴も無く、その巨石群の下敷きとなる!


 轟音と共に土煙が上がって、カンナのいた場所は巨大な岩で埋めつくされた。

 「ハハッ、ばあか……単純な手にひっかかってさ」


 岩山の上からレラが顔をのぞかせた。自らの周囲の重力をゆがませ、カンナの振動音波をで対消滅させ、反射を極小に押さえて身を隠すと同時に重力の塊で自分ソックリの実体の無い空間のゆがみを作った。それを、カンナは感じていた。そしてまんまと、ここにおびき出されたのだ。やはり、これは罠だった。


 だがレラも、こんなものでカンナが死ぬとは微塵も思っていない。案の定、崩壊した落岩の下から低音が響いていて、閃光が噴出する。レラは風へ乗って岩場から飛び下りた。瞬間、噴火でもしたかのような轟音と光が岩山の隙間から噴き出した。大岩が軽石かというほどの勢いで天へ向かって跳ねる。とんでもない威力だ!


 先ほどの戦いの続きだ。カンナがまぶしいほどの電流の塊をまとって、その岩山の中から飛び出る。カンナの力は無尽蔵なのか。レラも勝負に出る。長引いては不利だ!


 「レラアアア!」


 ウウウウウー!! カンナの声がまたサイレンのように空間を引き裂いた。同時に低音がビリビリと大地と大気をふるわせる。共鳴振動で木々が一撃で粉微塵となり、バガン、バガンと岩も粉砕された。


 「カンナアアア!」


 グオッ! レラの重力波も大きく翼を広げ、カンナを包みこんだ。強大な重しが、カンナの音響と電撃を封じる。


 それが、凄まじい「重さ」で、さしものカンナも空中へ浮いていたのを一気に地面へ押しつけられた。その地面も、見る間に地割れして凹んでゆく。このまま、押しつぶそうというのか。


 「……グウ……ウウ……ウウウウアアア!!」


 ヴァヴァヴァ!! 振動で地面が揺れる。重力波の振動とカンナの振動が二重に大地をゆるがした。地割れが発生し、ガバリと断層がずれる。その衝撃で、ドオッ! 縦揺れが生じて、意表をつかれたレラがたまらず腰砕けに倒れた。


 その隙に、気合でカンナ、レラの戒めから脱出する。


 レラは、どうしても実戦経験が無い。どう戦おうとも、明らかにガリアの遣い方はカンナに一日の長があった。ガリアは純粋にその力を敵にぶつける遣い方と、その力を応用する遣い方がある。その両方を自在に操ってこそ、ガリア遣いの本領だ。カンナはこの一年の旅で、アーリーやマレッティ、パオン=ミ達のガリアの遣い方を無意識に習得していった。レラにはそれがない。レラは、まともに遣ったらおそらくカンナより強力なガリア「風紋ふうもん黒玻璃くろはり重波刀じゅうはとう」の力を、十分の一も遣いこなしていないだろう。レラがカンナへ勝つには、初手に圧倒的な力で一気に押し切るしかない。そのための、殺人武術の稽古だった。持久戦に持ちこまれれば持ちこまれるほど、どんどん不利になる。


 カンナの球電の飽和攻撃を、重力弾でピンポイントで打ち消しつつ、その共鳴は重力波で打ち消す。逆に猛烈な風圧攻撃で、カンナの雷と音響の鎧をいでゆく。とにかく両者とも、攻撃力もる事ながらその互いの無敵に近い防御障壁を破壊しなくては、ダメージは相手に届かない。


 「う、うう……!」


 レラが再び呻きだす。まただ! また、あの共鳴が直接脳を揺さぶる! 周囲の轟音の全てを飛び越えて、耳鳴りが割れんばかりの激痛と共にやってくる。どうやって、カンナの音響共鳴振動が自分に届いているのか!? レラは不思議でたまらない。その方法が分からないので、防ぎようがない!


 「ウアーッ、イッテエエ!!」

 レラが涙目で頭を抱える。

 「ちっくしょう! どうなってんだよ、姉貴のやつゥウ!」


 歯を食いしばり、重力風を叩きつけた。だがこの攻撃は先ほどカンナに完全にいなされ、防がれている。しかも、威力は段違いに低かった。レラの力が、次第に弱まってきている。カンナの共鳴攻撃が、じわじわとレラの精神力を削いでいる! 


 カンナは、今度は黒剣を右手で突き出し、一気にその波を切り裂いた。カンナの共鳴は、一度つかんだ相手を離さない。レラがその固有振動を変えるか、振動の届かない距離まで離れるかしないかぎり。その両方とも、現状では不可能だ。

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