第569話 第3章 3-6 八人のガリア遣い

 「バーカ、ざまあみろ!」


 レラが目をむいて勝ち誇る。風を背にし、そのままの勢いで村へ降り立った。


 まだ逃げ遅れた村人がごった返している中に、まるで巨大怪鳥が降りてきたような突風が吹き荒れる。その中心に小柄なレラがいた。その強風でひっくり返って、村人らはさらに混乱していたが、レラはかまわずガリア「風紋ふうもん黒玻璃くろはり重波刀じゅうはとう」を慌てふためく周囲の村人めがけて振りかざした。


 ガイン! 黒刀を大きな幅の広い刀が受けて止めた。横から大きな鈍色の長刀……いや、蛮刀が突き出され、レラの刀を止めたのだ。


 バスマ=リウバ王国のガリア遣いだった。女だてらに竜革の軽鎧を着た筋骨隆々の戦士で、男と見紛える容姿をし、レラが驚いて見上げた瞬間にレラの刀ごと蛮刀を擦り上げて振りかぶり、逆にレラへ襲いかかった。


 ギャゥン! ガリアとがリアがぶつかる独特の音がして、女戦士が力任せにレラを押す。レラは黒刀を右手で柄、左手で峯を支える鳥居の形に両手で構えてそれを受けたが、なにせ子供と屈強の戦士だ、ぎりぎりと押され、たちまち蛮刀が脳天へ迫った。


 ガリアの力を使えばこんな類人猿めいた女戦士、一撃でひねりつぶせるがここは剣技だけで勝負する。


 女戦士のガリアは、異様な重さでレラへ迫った。


 この重さこそが、ガリアの力なのだろう。本来はもっと凄まじい重さであり、レラの黒刀がもしかしたら無意識に重力を緩和しているのかもしれない。


 ギィゥッ! ガリアとガリアが金属音と力場の混じった音を発し、火花を散らせて離れる。レラが瞬時に左手を離し、受け流しに体を崩して刀を滑らせたのだ。竜革鎧の女戦士はレラの眼前で刀を地面へ叩きつけてつんのめった。


 そこを、刀を振りかぶったレラが前足で地面を蹴って後ろに下がりつつ、間合いを取って引き斬りで襲った。


 まさにその背中から腰へかけて、青白い星雲の浮かんだ黒い刃が到達する寸前、レラの横から長槍が迫った。


 身をひねって槍を避け、レラが間合いを取る。槍のガリア遣いが竜をも一撃で突き、焼き殺す電熱の槍をレラへ向ける。その後ろから、ブーメランにも似た多数刃の回転投げナイフが飛んでくる。レラはそれを避け、さらに間が空く。その隙に、蛮刀の戦士はあわてて逃げ、レラより離れた。


 そして、続々と刀やこん棒、手槍を持った八人のガリア遣いが集まった。竜騎兵とは別に、ガリア遣いがこれだけいたのだ。


 「メンドくさッ!」

 レラ、ガリアの力を使うことにした。相手もガリア遣いだ、かまわないだろう。


 ドオッ! 風が吹きつけ、稲妻が走った。雷鳴と風音が入り混じって、暴風の圧倒が周囲を嘗めた。南部王国のガリア遣いたちは明らかに動揺し、こんなバケモノを相手にするとは聞いてないという表情で、レラへ威嚇の構えをとるのが精いっぱいだった。


 「ウアア!」


 風と共にやわらかい森の地面が歪むほどの重力が叩きつけられ、一同が打ち据えられる。さらに、地面が反動で盛り上がって、ガリア遣い達を空中へ放り投げた。稲妻が走り、宙に投げ出された八人を次々に打ち据えた。ドドドド……!! 太鼓の音のような連打音が轟いて、風の塊がガリア遣いたちを玩具のように弄ぶ。レラは引きつった笑みを浮かべ、血眼になって黒い肌の女たちを巨大分銅めいた重さを持った風の塊で打ち据え続けた。カンナも時折襲われるどうしようもない殺意の渦に、レラは何の躊躇も違和感も無く自ら渦の中心へ入って行く。また、それが竜への殺意ではなく、だれでもいい……いや、なんでもいいのだった。


 「死ねばいいんだ、死ねば!! 何もかも!!」


 この世のすべての生命へ向けた虚無的な憎しみが、レラの青白い光をさらに輝かせる。


 一人が、ドリルめいて回転しながら突き刺さる空気の渦に、肉体が引き裂かれて破裂する。その血霧が舞って、空気が赤く染まった。


 さらに、次々とガリア遣いたちが死んでいった。一人は青白い雷に感電し、一人は重力に身体がひしゃげ、一人は気圧の急激な変化に耐えられず耳目鼻口より血を噴き出して、一人は風の刃でもってズタズタに四肢が引き裂かれて、まるで子供に踏みつぶされる蟻のように死んでいった。


 「あっははあ、たあのしぃなあー!!」

 レラの顔が、血しぶきを得て歓喜にゆがむ。


 そのレラの背中へ、衝撃があった。一人が、レラの周囲を逆巻く風の隙間へ大きな回転投げナイフのガリアを滑りこませたのだ。ナイフはガリアの力の隙間を流れ、むしろレラの背中へ吸いこまれた。この多数刃回転投げナイフのガリアは、敵のガリアの力の合間を滑る力を持っていた!

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