第540話 第2章 5-1 奥院宮侵入
「司祭長」は別命「神殿長」ともいい、各地にある神殿の長と考えると良い。これも、大きな神殿から小さな神殿まであり、地方によっては司祭が司祭長を兼ねる場合がある。いくつかの村を束ねる地方長官を意味する。
「司祭」は地方の小神殿の長、あるいは大きな神殿では管理職となる。
「神官」と「神官補」は神職であると同時に、役所の事務職も兼ねる。
ライバとスティッキィが話を聞いている若いウガマール人の神官は、神官補であるとのことだった。神聖学校を出たばかりの、新人だ。
二人は小神殿を出てあちこち散策して周り、夕方にまた市場の屋台であまり辛くなさそうな焼き物や煮物、薄焼きパンを食べ、宿へ戻った。小麦が上等なためか、パンは非常にうまかった。魚を丸ごと菜種油で揚げたものは辛くなく、これもうまいと思った。
金へ物をいわせて大量の薄ワインや飲み水を買い、荷車で運ばせ、夕暮れとなるころに部屋へ入った。濁っていても仕方なく、二人で中庭に出て服を脱ぎ、水を浴びた。水を浴び終えたころには、すっかり暗くなって、街中を松明が彩り始めた。夜になっても暑く、二人は寝苦しい一夜を過ごした。そして、翌朝も早くから暑くて目が覚める。
二人は再び街を探索した。
そんな生活を六日ほど続け、ようやく街並の位置関係が頭に入り、気候に身体が慣れてきた。寝食のサイクルも、自分たちで最適なものを作り上げる。夏バテのような状態で、戦闘はできない。
「やっぱり昼より夜がいいね。昼は私たちには暑すぎて、どうにも動けない」
「そおねえ」
ベッドで寝るのが暑いので、二人はハンモックを買って吊るしていた。昼は窓を閉め、風の通るだけの隙間を空けてねむり、夜には、さらに細かく街の構造などを調べて歩いた。サソリや毒蛇ていどなど、部屋に現れても何も思わなくなった。そうして、奥院宮へ行く準備を整える。
八日経ったが、とうぜん、ウォラからは何も連絡は無かった。
二人は、いよいよ少しずつ奥院宮へ侵入することをきめた。
5
元来、二人はストゥーリアの暗殺者組織「メスト」の構成員だ。
竜を退治するより、忍びこんで人を殺すのが本領である。
日が暮れてしばらくたった深夜近く。歩きだした二人は、ライバの瞬間移動の力で、奥院宮の入り口にあたる大神殿の屋根の上へ一瞬で跳び移った。高所より奥院宮全体を眺め、地図を脳へ叩き入れる。もしこれが暗殺の仕事だったならば、この作業だけで三日はかけるところだ。
高塀の中の世界は、松明が整然と並べられ、昼と変わらず、容易に通りの様子を把握できた。ウォラがいる教練所とやらがどこなのかは、これから調査を続けなくてはならない。広さもそうとうなもので、ほぼ三ルット(約十キロメートル)四方の、閉じた空間だった。
「思ったより人がいるなあ」
ライバがめざとく、暗闇の中を蠢く夜間警戒中の兵士を発見する。
「いっつもあんなにいるのかしらあ? そうだとしたら、よっぽど侵入者が多いのね」
スティッキィも、逆にあまりの無防備さに、かえっていぶかしがる。
「ま、こんな塀だけじゃねえ。ガリア遣いに対しては、あまり意味ないわよねえ。意外と自由に入り放題なのかも」
「それはそれで、おかしいよな。普段からガリア遣いの襲撃を想定してるなんてさ。何か、私たちの想像もつかない仕掛けがあるのかも」
「考えていてもしょうがないわあ」
二人は屋根づたいに進むことにした。地面をうろうろすると、あの数の兵士だ。いくら瞬時に移動できるとしても、すぐに発見されるおそれがある。一回発見されると、警備が厳しくなる。
いくつか大きな建物があった。大神殿から続く大通りのような中央道路の行き着いた先に、並んで神殿と思わしき様式の建物が三つある。その両側に、同じほどのドーム屋根をもった建物も二つあった。あとは、普通に家々や、倉庫のような建物がびっしりと並んでいる。
「どこから行こうか……」
二人は鋭く研ぎすまされた暗殺者の勘で、どれが重要施設か見極める。当然考えれば、大通りの先にある奥の神殿だろうが、そこは儀式の場所だ。その周囲の建物へ向かう。屋根の上からは、中の様子は分からない。危険を冒し、移った建物の屋根より地面へおりて慎重に伺う。
一階建ての建物や長屋は、倉庫か使用人の居室だろう。目星をつけた三階建ての立派な建物へ近よった。松明も多く、警備も厳重だ。きっと重要な施設だろう。ウガマールの窓にガラスは無く、全て木窓だったので、耳を澄ませば中の音も聴こえる。室内の明かりも多くついていた。まず、ここにきめた。二人はまた近くの建物の屋根へ移り、隣の建物の屋根へも移って、四方から慎重に建物の間取りなどを確認した。
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