第487話 第2章 4-7 ガラネル
スティッキィとパオン=ミが入れ代わる。
「ほう……」
パオン=ミも確信した。
「あれは、ハーンウルム人ではあるまいか」
「ハーンウルム人?」
「髪が茶色いのは珍しいが、たまにおる。アトギリス=ハーンウルムは、アトギリス人とハーンウルム人がおるが、見た感じハーンウルム人のようぞ」
「教団関係者ってことお!?」
「そのようだが……」
ここにきて、パオン=ミにも、不安がよぎる。あの中肉中背の、こちらの人間からするとむしろ小柄な女性が、どうにも気になった。まさか、
「……護衛のガリア遣いではあるまいか?」
「どっちでもいいわよお。……やっちゃいましょ!!」
囁きで云うが、スティッキィが、ガリアを出さずに闇の星を両手に装備する。今度は大きい。闇に紛れて何も見えないが、四枚ある。闇を飛ばして明かりを消し、その隙に大量の闇の霧を室内へ充満させ、家族全員と謎の女を皆殺しだ。
「待て待て、焦る……」
パオン=ミの眼が見開かれる。隙間の向うで、椅子へ座ったままの女が振り向いてこちらを見ている。ニヤリとした不敵な笑みで、その右手にはアトギリス=ハーンウルムのガルドゥーンが遣う石打ち式の竜騎銃があった。しかも、それはガリアだ!!
「見つかっ……!!」
バアッ!!
銃声が轟く!
板壁が無数の弾丸で破壊され、ふきとんだ。散弾銃だ!!
一瞬早く三人が地面へ伏せ、無事だった。
この音で、集落じゅうが異変を感じた。
「逃げろ!!」
パオン=ミが叫びながら、ガリアを出そうとした。
「……!?」
が、出ない。
ガリアが出ない!!
それはスティッキィやカンナも同じだった。焦って、手を見つめるも、どうやってもガリアが出ない。
「……あ~ららあ、ねずみさんたち、うまくねずみとりにひっかかってくれちゃってえ」
思ったより明るい、高い声がする。振り返ると、怯える家族三人を後ろにして、女が逆光で自らが空けた壁の穴の前に立っていた。スティッキィよりやや低いほどの、カンナとスティッキィの合間ていどの背丈だが、豊満なスティッキィよりさらに大きく張り出した胸元や腰回りが印象的だ。ユホ族の色彩豊かなスカートも大股に仁王立ちとなって、右手にいわゆる短ライフルの大きさの、アトギリス=ハーンウルム独特の銃を肩に担いで持っている。この世界、銃を実用化しているのは、アトギリス=ハーンウルムのみである。従って、ほとんどアトギリス人かハーンウルム人しか、ガリアで銃を出さない。あのパーキャス諸島にいた銃のガリア遣いバルビィも、アトギリス人だ。
「む……」
パオン=ミ、それよりも、急にガリアが遣えなくなったことの方が衝撃が大きい。この効果は、あの銃では無さそうだが。
「パ、パオン=ミ!」
カンナが珍しく動揺した声を上げる。見ると、周囲にぞろりと人影があって、その人間の肩や腕、脛が発光器で赤く光っている。すなわち、
「……バグルス……!!」
しかも、全員のその額や側頭部の角も、赤く明滅していた。
こやつら、全員がガリア封じの力を持ったバグルスたちである!!
また、これほどのバグルスを従えるということは、つまり……。
「其方が……ガラネルか…!!」
どっと汗を流しながら、パオン=ミの顔がゆがんだ。スティッキィとカンナも驚愕に引きつる。ダールは大柄だと思いこみ、このようなふつうの体格の女がまさか紫竜のダール・ガラネルだとは微塵も思わなかった。判断の甘さが招いたミスだ。
女がさも楽しそうに目尻へ小じわを作る。
「さあねえ。どうでしょうねえ。ねずみには、説明するのも時間がもったいないわよねえ」
「おのれ……」
パオン=ミが暗がりより睨みつけるが、ガリアが出ないのでは、何程の迫力もなく、むしろ萎縮しているのが見てとれた。
「さあて、ねずみ狩りのはじまりはじまりい~」
女……ガラネルの眼が、楽しげに闇へ赤く光る。
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