第415話 仇討 1-2 ネタ屋
小銭を払い、相も変らぬ味のない妙に金属臭い竜肉の煮物と、膨らまし粉の入った黒パン、それに酢漬けのキャベツのスープを食べる。これでも、食べられているほうなのである。
無言で平らげ、残りの金を受け取りに「とある場所」へ向かった。組織より指定されている場所で、何人かの暗殺者の溜まり場だ。それぞれが、こういう場所を何か所も指定されている。暗殺者たちは、自分以外の「とある場所」を知らない。組織のほうでも、そこで手駒の確認をする。
「とある場所」とは、何のことはない、「ガランタ」という名の小汚い飲み屋であった。ガランタは固有名詞で、特に意味はない。いかにも流行っていないふうで、路地裏にあって薄いビールや酒ともいえぬ怪しい物を出すが、暗殺者たちの
オーレアは二人を無視し、カウンターへ座った。
すぐに主人が現れる。この主人は暗殺組織「覆面」の一員で、仕事を伝え、成功を確認してから組織上層部よりの報酬を手渡す。けっこう重要な地位にある。金と命にからむのだから、当然だ。
「確かに死んでいた。半金だよ」
残り二十五トリアンの入った麻袋を出す。金貨二十五枚だ。
「クラリアは?」
「もう来て、もってった」
「聞いたでしょ? あたしの分もあげてもよかったのよ」
「それは知らない。おまえたちで勝手にしろ」
「ですよね~」
オーリアが小さく舌を出し、麻袋を素早く竜革の肩下げ鞄へ入れる。その様子を、忌々し気にガリア遣いが横目で見たが、オーレアが気づいてその女を見る前に、すぐに視線を戻した。とてもではないが、ガリアではかなわない。オーレアの力は、この暗殺組織「覆面」でも抜きん出ている。それなのに欲がない。野望もない。それが、上昇志向の強い者たちから「すかしやがって」と、反感を買っている。
欲も野望もないのは当然だった。オーレアは、暗殺者として名を上げるつもりも、稼ぐつもりもないのだから。
オーレアは席を立ち、そのまま情報屋の向かいへ座った。
「どうも、
顔の形が歪んでいる痩せて額の広い小男のほうがずっと年上だが、組織では立場が違う。小男は薄ら笑いをうかべ、ヘコヘコと何度もお辞儀して媚びを売った。覆面内ではハゲネズミと呼ばれている。名前は、誰も興味がないので知らない。どうせ、クラリアかクラリアの男性形のクラリオのどっちかだ。
「どう?」
オーレアの眼と表情が、先ほどまでの、ちょっとおどけたふうの明るい調子から、暗殺者然とした冷たい光に変わる。ハゲネズミが怯みつつも、ちらちらと部屋の隅のガリア遣いを気にしだす。
「お邪魔なようなら、出ていきますけど?」
棘だらけのもの云いで、女が腰を浮かせた。
「別にぃ。聞きたかったら、聞いててもいいのよ。仕事の話じゃないからね」
声は明るいが、眼が竜のように無機質で鋭い。女は冷や汗に濡れた。ガリア遣い同士にしかわからない、本能のようなものだ。
「いや……遠慮しておくよ。大将、あたいのほうは、受けるからって伝えとくれ」
「おう」
髭面で眼だけが刃物のように光る主人が低く答える。そして女が出てゆくと、主人も引っこんでしまった。この世界で余計な話を聞くのは、少なくとも得なことではない。
息をついて緊張を解き、ハゲネズミがようやく口を開く。
「もうしわけありやせん。有力なネタは……」
「そう」
冷たく返す。ハゲネズミが小便でも漏らしそうなほど、震えだした。もちろん、寒いわけではない。
「す、す、す、すく、すく、すくなくとも、ここ、この覆面にゃあ、いやせんぜ」
「他の組織に、なんとかつないで、探ってちょうだい」
「そ、それは……」
ハゲネズミが目を見開いて黙った。死ねと云っているようなものだ。
「お金でなんとかして」
オーレアは、いまもらったばかりの二十五トリアンを袋ごと、ハゲネズミの前へ出した。
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