第410話 死の舞踊 5-2 星々の血の喜び

 「星々の血の喜びを!!」

 「ウオオ!」

 十手じゅって遣いが一気に間合いを詰め、接近戦を挑んできた。

 「なめんなあ!!」


 マレッティも受けてたつ。半身はんみよりさらに身体を真横にした一重身ひとえみで構え、ガリアである剣を振るう。相手も、独特の低い姿勢の構えから十手を刷りあげて、マレッティの剣を押さえにかかった。


 二人で二度、三度と激しく撃ち合い、女が体を一瞬で入れかえ、回転しつつ身を低くして十手で横払いにマレッティの足をねらった。マレッティはひょいと跳びあがってそれを避け、光輪を飛ばした。それは女が真空の刃で相殺した。


 着地してより、女が大きく下段から十手を振りかざし、マレッティがのけぞって避け、その隙にがら空きの真っ向から剣を握る右手を上段から打ちにゆく。マレッティ、そうはさせじと後ろへ下がってそれを避けつつ、反動で前に出て連続突き! 


 女も急いで下がりながら、また体をくるりと入れかえ、真横へ回ってマレッティを攻撃した。しかしマレッティも歩を変えて向き直り、正確にそれを正面へとらえ、細身剣で十手を擦りおろす。ガリアとはいえ、振ればしなるほどの細鋼ほそはがねで鉄の棒を勢いよく擦りおろすのだから、女も驚いた。遠心力か、擦る力か……武器が自ら動いているような錯覚を覚える。


 二人は血だまりを踏み濡らしながら、間合いをとって、息を整えた。石畳の床に、二人の歩方ほほうによる血の模様が描かれている。


 「……アーレグ流十手術とはね」

 マレッティがストゥーリア語で云った。

 「そっちこそ、カントル流にしては、使う」

 女が初めてストゥーリア語で物を云った。


 どちらも、ストゥーリアの正統武術だ。ただし、カントル流は大昔の貴族の試合剣術から発達しているので、実用性が低いとしてアーレグ流をやるものからは、ちょっと低く見られている。そして、カントル流はその油断を逆に利用して、意外と強い。


 「使うついでに、こういうのはどお!?」


 マレッティ、素早く前蹴りぎみに右足を蹴り上げて、床の血溜まりを女めがけて飛ばしつけた。床を流れる血が女の顔へまともにかかって、目つぶしとなった。これは、裏カントル流の禁則技だ!


 「なっ……!」

 すぐさま、女が防御のため自分の周囲へ風の流れを作った。さすがに、手慣れている。


 そして同時に左手で顔をぬぐい、血糊を除去した。

 そのときには、マレッティが果敢にも剣身へ光輪をまとわせて、突きかかっていた。


 床の血で足を滑らせぬよう、慎重に歩を進めつつ、いったん閉じてから再び開いたその眼めがけて、閃光を叩きつける。女がまともにそれをくらい、今度は光の目つぶしでよろめいた。


 風の流れが乱れる。

 その隙間に、マレッティは光輪を滑りこませた。


 複数の光のスライサーが、女の周囲を螺旋に回った。まず両腕が落ち、肺が切り裂かれ、腹からは臓物が飛び出た。首がほぼ切断され、血飛沫ちしぶきが舞う。十手のガリアが消え、血溜まりの中に女も崩れた。


 マレッティ、思わず息をついた。まさか、メストを倒せるとは……。自信でガリアの光がいや増す。


 そして、トラインに対峙する。トラインは恍惚こうこつの表情で、唸り声にも似た、なにやら呪文のようなものを唱えていた。


 「自分が生贄になることね」


 マレッティは容赦なく、光輪でトラインを袈裟斬りに両断した。勢いで後ろにひっくり返り、血をふりまいてトラインは絶命した。


 周囲を見ると、生き残った数人の商会の人間は、固まって石像のようだった。

 この惨劇の中、ルーテは気絶してしまっているだろう。マレッティはそう思った。

 「……?」

 ルーテがいない。

 無事に逃げたのか。


 猿ぐつわをされ、両足と後ろ手に縛られ、祭壇の前に横たえられていたはずだが。

 誰か、助けたのだろうか?

 「う……」


 マレッティがうめいた。身体が動かない。痺れる。それどころか、手が勝手に動く。右手がつり上げられているかのように上がって、ガリアである細身剣を離した。ガリアが床へ落ちる。


 「マレッティ、思った通りに、すごい生命力……」

 ルーテの声がした。


 マレッティの首が、あらぬ方向に曲がってゆく。そこには、足組みをして椅子へ座って右手で頬杖をつき、満足げに口元をゆがめたルーテがいた。

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