第308話 氷の中の孤独

 「なによ、さんざんこっちを口説いておいて、いざ攻めようとすると待ってろなんて、デリナはやっぱり考えすぎておかしいんじゃないの? せっかく冬になったのに。半年も待ってたら、夏になっちゃうじゃない!」


 「待つのも攻めです」

 「なに云ってるのか、ぜんっぜんわかんない」


 そりゃ子供にはわからないだろう……デリナはそこも見越して動いているはずだ。伝えることを伝えるだけが仕事なので、ライバはそれ以上は何も云わなかった。


 「なんだっけ……お母さまの本に書いてた……策士、策とー~おぼれる、だっけ……。それなんじゃないの? こっちはこっちでちゃんとやるから。デリナはサラティス攻めに失敗してるんだから。自分のことだけ考えなさいって伝えて」


 「はい……」


 ライバは礼をして、下がった。見送りにボルトニヤンも出てゆく。やがて、ライバを見送ったボルトニヤンが戻ってきた。


 「よろしいのですか……? せっかくデリナ様が」


 「いいのよ。こっちは本気じゃないんだから。ガラネルからも手紙がきてるんだから。アーリー達にやられた、なんとかっていう青竜のダールを助けたんだって。デリナなんか嫌い。いっつもにやにやして……人をバカにしてるんだから。それより、緑竜と黄竜こうりゅうのいどころは、噂ぐらいはつかんだの?」


 「それが……黄竜は、こちら側のどこかにいるようですが、緑竜のダールは、やはりあちら側にいるようです。ラズィンバーグのあたりにいるという話もありますが、そこからウガマールに行ったという話も」


 「まさか……ウガマールにつかまってるんじゃないでしょうね!? あいつら、千年以上もまえに、あっちの竜皇神様をぜんぶ滅ぼしたんでしょう?」


 「そう、聞き及んでおります」


 「そんなすごい古代の神官たちの生き残りにつかまってたら……緑竜は雷竜……なんとかっていうバスクスは、雷を操るっていうじゃない」


 「まさか……とは思いますが」

 「調べるのよ」

 「はい、ホルポス様」


 ボルトニヤンは礼をして、部屋を出た。ボルトニヤンが再びその入り口へ手を当てると、みるみる薄い幕氷が張って、氷のカーテンとなった。


 「……あーあ」


 再び一人となったホルポスは、大きく息をついた。椅子の上で天井を見上げて、そのきらきらと輝く間接光を見つめた。それがにわかに暗くなった。雪雲が強風で流れてきたのだ。そして、みる間に吹雪となった。


 「なんで、お母さまは死んじゃったんだろう」

 疲れきった顔で、ホルポスはつぶやいた。

 暖炉の小さな火が、パチンと爆ぜた。

 吹雪の、氷を叩く音が聴こえる。



 了




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