第301話 カルマ集合

 その途中、雪が止んだ。月も出て、雪に地面がぼおっと明るく反射する。

 敷地の中にある、とある古い建物の横を三人は通った。

 「あ、ここよお。たしか、大昔のお風呂……」

 「なんですってえ!?」


 マレッティは立ち止まり、その半地下の倉庫のような場所を凝視する。煉瓦ではなく、古い石積み造りで、枯れた蔦が這っていた。たしかに、煙突めいた突起も屋根に見えた。


 「後で調べましょう。まずは、支配人に会わないと……」


 衛視が二人を住居棟の最上階である四階の最も奥の部屋へ案内した。グラントローメラと同じく、その階のみ装飾が異様なほど豪華であり、重厚で異質な雰囲気だった。ただ、レブラッシュの趣味か、花柄文様が多く、やわらかげな印象だ。


 廊下の突き当たりにあるのは、ホールの入り口だった。私的な会議や催しに使われる場所だ。重そうな両開き扉の前に二人も衛視がいて、マレッティとスティッキィを引き継ぐと、そのメストの一員である衛視は礼をして下がった。


 「どうぞ」

 扉が開き、二人は中へ入った。


 燭台やシャンデリラに火が灯って、暗さに慣れていた二人は目を細めた。と云っても、しょせんはろうそくの集まった光だ。大型のランタンも置いてあるが、明るいといっても、側の人物が浮かび上がるといったていどだ。思わず、マレッティが照明代わりにガリアを発動する。今度はレブラッシュがまぶしさに目を細めた。


 そこにはアーリー、カンナ、レブラッシュそして商会の幹部が数人、いた。

 「マレッティ! ……が二人いる!?」


 カンナが目を丸くする。スティッキィはそんなカンナの、眼鏡の奥で翡翠色に輝く瞳と、光の粒を反射する黒鉄色こくてつしょくの髪、そして漆喰めいた真っ白に近い乳白色の肌に、


 (この子がそうかあ……たしかに……こりゃ、まともな人間じゃないわねえ)

 愕然とそう思った。

 「どうしてマレッティが二人いるの? いままでどこに?」

 カンナが、いかにも素朴な疑問をぶつけてくる。


 「え、ええ……と、まあ、そのね、その、こっちは、あたしの……その……双子の妹のスティッキィよ。彼女もガリア遣いで……その……なんていうのかしら……」 


 珍しくマレッティ、額から脂汗を流す。見かねてスティッキィが、

 「ガイアゲンでフルトをやってるのお」


 「そ、そうなの。あたしも知らなくってえ。こっちで久しぶりに会ったものだから……しばらくいっしょにいたのよお。ねえ」


 「ねえー」

 声まで同じなので、カンナは驚いて声もない。双子というものを、初めて見た。


 レブラッシュは、マレッティが既にメストとなり自らの傘下となったことを、もちろんおくびにも出さない。


 「はじめまして……ステッキィにこんなお姉さんがいたなんて、全く知らなかったわ」

 などと、いかにも白々しく、握手をする。


 マレッティは、勘の良いアーリーがどういう表情をしているか、ちらりと盗み見た。が、アーリーは大きな椅子へうなだれて座ったまま、両肘を両膝へ置き、ぐったりとした様子を隠してもいない。顔色も悪い。


 「……ちょっと、どうしたの? アーリー」

 「……大丈夫だ……」


 明らかに大丈夫ではない。カンナを見たが、カンナも戸惑い気にマレッティを見返すだけだった。よもやカンナ、ガリア遣いを一掃した自分の攻撃でアーリーもダメージを受けたとは思っていない。

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