第277話 破綻の秘密

 マレッティ、息を飲みこんだが、すぐに開き直った。


 「そんなこと云ったってさ……狂ったあんたたち抱えて、マタ開き続けろってえ? 冗談じゃないわよ! あんただって、それがイヤでおかしくなったんでしょ!?」


 「殺さなくたっていいじゃない」

 「どっちにしろ死んでたでしょ」

 スティッキィは肩をすくめた。


 「ま、そおよねえ。狂った母娘で残されても、容赦なく部屋を追い出されて野垂れ死によねえ。あたしは、たまたま死に損なっただけ……。確かに立場が逆だったら、あたしもそうしてたかも! でも……昨日も云ったけど、むしろ感謝してるのよ。だって、あたしもガリアが出るようになったし……幻聴も聞こえなくなった! 治ったのよ! 代わりにガリアが語り掛けてくれるの……」


 ク、ケッ、ケ、ケ……と、スティッキィは虚無的に暗い眼差しで、ひきつったニワトリみたいな声を出して笑った。


 それ、治ってねえだろ、とマレッティは思ったが、口には出さなかった。

 「で? なんで……メストに?」

 「メスト、もうかるわよ?」


 マレッティが上目で鋭い目つきを向けた。立っているスティッキィは、逆に見下すような澱んだ眼だ。


 「あんた、今年メストでいくら稼いだの?」

 「……うーんと、百八十トリアンくらいかな?」


 「あたしはだいたい、五百五十カスタよ。比べ物にならないわあ。今年はこれでも少ない方だし。適当にバグルスを殺すだけで、サラティス政府がバカみたいに金出すのよ。あったかいし、お風呂もあるし、食べ物は美味しいし、あんたこそサラティスに来ればあ?」


 「だから、そんなに太ってるのね。動き、鈍かったわよお」

 「うるさい」


 マレッティは無意識に、最近だぶついている腹をさする。さすりつつ、マレッティは身体のあちこちに鈍痛と湿布の感触を感じている。ていねいに打ち身薬が塗られている。特に下腹部はまともにスティッキィの踵前蹴かかとまえげりをくらったので、かなり痛い。腹筋を鍛えていなかったら、内臓を壊されていた。彼女も、ただ怠惰に過ごしていたわけではない。最低限の身体訓練は行っていた。


 スティッキィ、視線をはずして、窓の外を見た。

 「あたしはここでやってくわあ」

 「なんの未練があるのよ、こんな街に……」 

 「父さんの仇を討つのよ」

 「ええ?」

 マレッティは素直に驚いた。


 「だいじょうぶ? あんた、父さんは事業に失敗して自殺したのよ? わかってる?」

 「わかってるわよお」

 スティッキィがきつい表情で振り返る。


 「グラントローメラが、シュタークの販路を奪おうとして、貸しがしをやったのよ。それで資金繰りがいっぺんにダメになって、ウチは倒産した」


 「はあああ!?」

 マレッティ、完全に初耳だった。 

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