第245話 フルト
「今回の緊急メスト招集、いったい議題はなんでしょう?」
甲冑が微動だにせず、聞き取りづらい声を兜の下より発する。男とも女ともとれない声だ。声色を使っているようにも思える。
この会合の招集は、三人の中の誰かが発し、それぞれの組織の指定されたある意味信頼ある暗殺者同士がつなぎあって、最終的に三人へつなげるのである。
覆面……バーケンが、息を落ち着かせるようにして、しばし沈黙していたが、やがて発言をはじめる。
「サラティスのカルマが、スターラに着きましたぞ」
「ほう……」
ふんぞりかえって、仮面がバーケンを見下すような姿勢となる。いつものことなのでバーケンは無視だ。
「カルマといえば、このスターラにも、ガリア遣いの組織を作ろうと画策していた……」
「左様」
甲冑の言葉にバーケンがうなずく。つまり彼は、最初から知っていてアーリーたちに接触し、手始めにカンナを片づけてしまおうとしていたのだ!
「グラントローメラの隊商にひっついてスターラ入りしたという情報を得ています。しかも、街道筋で隊商を襲った連合盗賊団を壊滅させてしまったとか」
「そのようですな」
甲冑の言葉に、バーケンがしらばっくれて答えた。彼がグラントローメラの大番頭というのは、仮面と甲冑の二人には知られていない。が、実は、バーケンと仮面は、表の仕事でも何度か顔を合わせており、うすうす互いに正体を感じていた。だがそこは黙っている。本当に得体のしれないのは、この甲冑だった。
「街道筋の盗賊どもといえば、背後で操っているのはそのグラントローメラではないか。相変わらず、自分で自分の荷物を奪って片や保険金をせしめ、片や奪った食糧を闇で高値で売りさばくなどと……やることがせこい」
「まったくですな」
バーケンの声には何の澱みもない。仮面は、そんなバーケンを逆に信用しているのだった。
「しかし、その目論見もカルマのおかげで御破算ということですか」
「そうなりますな」
甲冑にバーケンがうなずく。
「で? それとメストと何の関係が!?」
仮面の苛立った声がさらに高くなる。仮面は、バーケンの勿体ぶった性格をあまり好んではいない。
「連中、ここへくる前にパーキャスへ寄ったそうなのですが、ガラネルのバグルスも、依頼によりメストが派遣したシロン、マウーラ、ヴィーグスとも、皆殺しにしてくれたということですぞ」
バーケンの言葉に、仮面と甲冑が無言となった。シロン(と、ついでにヴィーグス)は仮面の、マウーラは甲冑の配下だった。
「おまけに、このスターラで『フルト』どもの相互組織を作ろうというのだから、我々の利権を脅かしかねませんぞ」
「云われんでも、わ、分かっとる!!」
仮面が興奮して怒鳴り声を上げた。バーケンも、この人物の手堅さを信用していたが、短気な性格は嫌いだった。ぜったい、この性格のせいで足をすくわれ、いつか組織ごと滅亡すると観ていた。
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