第235話 始末

 また、カンナが衝撃のあまりガクガクと震えだした。ライバが、身構えて距離をとる。

 「ゆる、ゆるせない……」


 「でも、カンナさん……盗賊を倒しても、中の奴隷たちは、あたいたちにはどうすることもできませんよ。バーケンさんだって、いちいちあんな奴隷くずれを引き取らないし……」


 「ウガマールには、孤児を集める施設がありますよ」


 「スターラにはありませんよ。正確には、お金や建物はあっても、じっさいに養う食べ物がないんです……」


 「竜でもなんでも食べればいいじゃないですか。わたしはウガマールの奥地で、乾期で食べものが無いときには、虫だって食べてましたよ」


 「冬にはその虫すらいないんですって……。竜肉は、狩りに行ったって、市民で分け合うほどしか……。孤児に食わせる余裕は、どっちにしろないんです」


 「じゃ……どうするんです!?」

 「せめて、地獄みたいな浮世から解き放ってあげるしか」

 「なにそれ……殺すっていうんですか!?」


 「カンナさんの手を煩わせるまでもありません。あたいがスターラ人として、ちゃんと始末します」


 カンナは声も出なくなった。また吐き気が込み上げる。なんとなく、マレッティがスターラには帰りたくないと云い張っていたのが理解できた気がした。想像と言語を絶する都市だ。


 「なんてところ……!」

 「侮蔑しましたか? スターラを。スターラ人を」

 「……いいえ……そういうわけでは……」


 「カンナさんは、外で盗賊をお願いします。あたいは、中に残る盗賊を。そして、残された奴隷たちも……始末をつけます」


 カンナはややしばし無言だったが、それ以外答えようのない答えを絞り出した。

 「はい……わかりました」


 カンナは、大きく息をつき、純粋に竜へぶつける底知れずに湧き起こる殺意の渦を、そのまま人間とも思えぬ、いや、いかにも人間の欲望のままに生きる盗賊たちへ転嫁せしめた。別人のごとき冷たい表情となり、ライバをひるませる。その怒りと殺意がガリアとなって固まって、地鳴りとプラズマ電光が片手下段に構えた雷紋黒曜共鳴剣らいもんこくようきょうめいけんからあふれ出た。漆黒の剣身に、黄金の線模様が脈打つ。乳白色の肌は晩秋の風にうすら寒さすら感じさせ、眼鏡の奥で電光にバチバチと明滅する蛍光翠の瞳は人間とは思えない。


 ライバは、その強力すぎるガリアの力の一端を既に垣間見て、アーリーの威圧とも異なる不気味な迫力に圧倒された。


 「さ、さすが、カルマってことです……か……ね……。じ、じゃ、盗賊たちは、まかせます……よ……」


 「はい」


 カンナの声はまるで電気で合成したようにかすれて歪み、そんな音声を聞いたこともないライバは背筋が総毛だった。じっさい、恐るべき静電気がカンナより発せられ、ライバの全身をざわつかせた。耳へ遠雷の音がこびりついて脳を侵食する。


 たまらず、ライバが次元穴瞬通屠殺小刀じげんけつしゅんつうとさつしょうとうで移動、時空の隙間に入って一瞬で古城の反対側へ逃げた。

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