第212話 歓待

 「コンガルどもがいねえから、値もつけ放題、注文も独占だ!」

 ウベールが台に乗ってそう叫びながら、仕事を指揮していた。


 アーリー達は島の町から離れた場所にある、かつての富豪網元たちが建てた温泉付の豪邸……いまは公民集会所に使われている建物に宿泊を許され、温泉でゆっくり祭が始まるまで骨を休めた。存分に暖まって汗と垢と潮を落とし、祭に出る御馳走を食べるため、質素な食事で二日を過ごした。


 二日後は、よく晴れたまさに秋晴れだった。まだ、風は暖かい。まるで春先を思わせた。


 祭が始まるからと呼ばれて行ってみると、リンバ島へコンガルの生き残りの住民を護送してきた四隻の漁船も戻ってきていた。本当に、着の身着のままでコンガルの人達をリンバ島へ放り投げるごとくただ置いてきたようだった。彼らの分の余分な食料も乏しいはずのリンバ島で、住む場所も無く、水も少なく、ようするに冬の間に苦しみながらみんな死ねというにも等しい扱いだった。直接処刑するには気が引けるというわけか。


 「島根性よねえ。意外といやらしい連中だわあ」


 この二日で仕立てた新しい旅装に身を包んだマレッティが、祭に浮かれるバーレスの人々をねめまわしてつぶやく。


 「聴こえるって、マレッティ……」


 港の広場にはテントが張られ、テーブルにはバーレスの人々が丹精こめて用意した料理や酒が並んでいた。ローストビーフ、鳥や豚の焼き物、煮物、揚げ物、山羊汁、それらの臓物料理、などの肉料理は、パーキャス諸島の人間にとっては結婚式か葬式でしか食べられない大御馳走だった。大漁祭ですら出てこない。それらは、もちろん真っ先に貴賓席へ座ったアーリー達に盛られたが、肉類は大陸へ戻ればいつでも口にできるので、少し口をつけると、遠慮してバーレスの者へ分け与えて喜ばれた。


 それに、山のような海の幸だ。カンナ、大鍋で作られたパーキャス名物の魚肉団子スープは、コンガルのものよりハーブが薄く、塩味が濃いように感じた。


 「こっちこそ、食べおさめよねえ。たぶんもう二度とこんなにたくさんの新鮮な魚はたべないわよ」


 マレッティは巨大なロブスター蝦を茹でたものへかぶりつき、深い器に入れられた魚介スープを大きな木のスプーンでかっこみ、白身魚のフライを頬張った。さらに島自慢のエールをここぞとがぶ飲み。


 アーリーも、黙々と魚介の料理を口にしている。


 カンナはコンガルの居酒屋カルビアーノや、いっしょに食事をしたバルビィを思い出し、やたらと切なくなった。どうも、自分はここのところ感傷的なのだろうか? 


 (そういや、バルビィはどうしたんだろう?)


 あの毛布をかぶった人物は何者だったのだろうか? あの後、井戸水で血を洗い流し、やわらかい鞣竜革の眼鏡ふきでメガネを清め、それとなく周囲を観察したが、まったく分からなかった。どうも、よく覚えていないがギロアを含めてあのガリア遣い達はみな倒されたという。きっと、ギロアの館にいたガリア遣いの誰かに襲われたのを、バルビィが助けてくれたのだろうことはなんとかなく理解できた。自分をこの島から解放してくれた礼のつもりだったのだろうか。


 「やあ、みんな、食べてるかい?」

 リネットがエールのジョッキを片手に席へやってきた。

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