第203話 マレッティ合流

 いや、そんな難しいことではない。


 信じていたものから裏切られた辛さ。それだけだった。ウガマールから、殺し屋が来るなどと……。


 ひとしきり泣くじゃくり、涙も枯れるまで、アーリーはカンナをしっかりと抱きしめていた。

 そして、立ち上がり、無言のまま、カンナを連れて町へ戻った。



 木のメガネケースへ入れてある、やわらかい竜の鞣革から作られた専用布巾でメガネをぬぐい、カンナは改めて倒れている特大の大海坊主竜を間近で見つめた。息をしていないように見えるから、死んでいると思ったが、分からない。大量の海鳥が止まって、岩石のごとき鱗の破片をついばんでいる。


 町には誰もいない。まさか、全滅したのだろうか。

 「ちょっとお! だれか生きてるう!? だれもいないのお!?」


 マレッティの声がした。瓦礫だらけの海をディンギーがつっきって、竜が足を乗せたことで一部が崩れた船揚げ場の無事な部分へ係留し、マレッティがちょうど岸壁をよじ登って上陸したところだった。


 「マレッティ!!」


 カンナが手を振る。一面、建物が無くなっているので、マレッティはすぐにカンナとアーリーを発見し、駆けよった。


 「無事い? 二人とも! ちょっとこれ、倒したのお? ……どうやって!?」


 マレッティは、横たわる巨大な岩盤めいた特大の大海坊主竜を改めて、まじまじと見つめた。


 「マレッティ、傷は大丈夫か?」


 アーリーが気づく。マレッティは腹から胸にかけ、白布を包帯代わりに巻き付けていた。血がにじんでいる。


 「ああ、これえ? ちょっとやられたのよ……バグルスに。ちゃんとやっつけたわよお! そこそこ手こずったけど」


 「あの二人はどうした?」


 「死んだわよ。バグルスにやられて。ガリアの効果や、ガリアそのものを弱める、特殊な力を使ったのよ。あんなバグルスもいるんだわあ。これから気をつけないと。みかけも、だいぶん人間に近かったし……倒すだけで手一杯で、護るまで手が回らなかったのよお」


 「そうか」

 アーリーは、意にも介さなかった。

 「そっちこそ、弓をつかう子はどうしたのお?」

 カンナが硬直する。

 「死んだ。戦いに巻き込まれてな」

 「そうなんだあ」

 マレッティも、心配すらしない。


 カンナは改めて、カルマの恐ろしい秘密の一端を知った気がした。格下のバスクやガリア遣いの死など、彼女たちにとっては竜の死以下の出来事なのだ。何も興味が無いのだ。


 「それはそう……ちょっと、動いてるわよ、こいつ!」


 マレッティが二人を下がらせる。アーリーとカンナ、振り返ってさすがに身構えた。丘に寄り掛かるように横たわっていた大海坊主竜が、とその身体を起こしはじめた。

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