第201話 暗殺者

 「……えええええええええ!?」

 カンナ、何が起きたか理解できぬ。


 矢は遙か天の彼方へ飛んで行ってしまい、閃光を発して破裂し、雲を押し退け、蒸発させた。


 遅れて、轟鳴が衝撃波と共に到来する。


 皮肉なことに、起き上がった竜がその衝撃からカンナを護った。大海坊主竜は衝撃波を全身に受け、崖に叩きつけられた。元より、避けたといってもその熱と電流が竜の胸元から首にかけてを焼き裂いていた。竜はそのままばったりと町のあった場所に崩れ、倒れ伏した。


 「アッ、アーリー!」


 カンナの今の実力では、あの攻撃は一撃が限度だった。ガリアは一瞬で元の黒い剣に戻った。立ち上がって、坂を下りかける。


 アーリーはガリアを消し、一瞬早く大海坊主竜の頭から飛び下りていた。

 それをちらりと認めたカンナ、息をついて歩を止めた。

 そのカンナを、ガリアの矢が貫いた。



 のけ反って、カンナが坂に転がる。高台のちょうど対岸の位置にいたトケトケが、カンナを射抜いたのだ!


 しかしカンナ、射抜かれてはいなかった。


 のけ反ったのはガリアが音の防壁を無意識で作り、それにカンナが押し退けられたかっこうとなったからだ。


 ガリアはしかも、自動的にトケトケへ雷撃を繰り出していた。

 「ダメえッ!!」


 カンナが無意識を制御しようとする。空から一条の稲妻が降り注ぎ、トケトケを襲う。瞬間につんざく雷鳴。カンナは起き上がって走った。


 「どうして……!?」


 カンナは涙が出てきた。カンナはトケトケたちがシロンから報酬を受けてアーリーやカンナを売ったことをしらない。また、バルビィとの戦いのとき、トケトケが自分を襲ったのもだ。


 だが、真実は、そんな生易しいものではなかった。


 坂を下り、また登る。岩影に倒れているトケトケの上半身が見えた。カンナは息を切らせ、懸命に坂を上がる。上がりきって、トケトケへ近づいた。近づいて、恐怖と衝撃に足が止まった。震えが止まらない。


 雷撃はトケトケへの直撃を避けたが、下半身を焼き尽くしていた。腰から下が焼け焦げ、炭化した左脚は膝から折れて吹き飛んで転がっている。血生臭い焦げた臭いと、電離物の鼻をつく酸っぱいような刺激臭。


 トケトケは長い癖のある黒髪を枯れ芝の地面へ投げ出し、風にあおられて目鼻だちの整った顔へその髪がからみついた。仰向けに虚空を見つめ、両手を拡げて倒れている。右手には、ガリアの弓である鋼板発条竜射弓こうばんばねりゅうしゃきゅうがまだ握られている。大きく美しい眼でカンナを認めると、トケトケはぶるぶると左手を上げ、右手のガリアに矢をつがえようとする。


 カンナは棒立ちとなってトケトケをただ見つめた。


 トケトケ、ガリアの矢がもう出ないことに気づき、ばったりとその左腕を地面へ投げ出した。右手の弓も、砂のようになって強い潮風に消える。


 「どうして……」

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