第196話 粛清、そして

 「……あ!?」

 ニエッタ、状況かつかめぬ。


 「だいじょおぶよお。ちゃんと、殺してあげるからあ。死体くらい、誰か回収してくれるでしょ。この場所が分かれば」


 「どっ……どうし……てっ……」

 ニエッタが後退るが、衝撃と恐怖で脚が震え、まるで進んでいない。

 「さっき、あのバグルスも云ってたでしょお。裏切り者は、また裏切るのよ」

 マレッティの笑顔がひきつる。

 「……こいつ、カルマを売っておいて、五体満足ですまそうなんて思ってたってえのぉ!?」


 美しい蒼い眼をむき、狂気的な顔つきとなって叫んだ。ニエッタが、悪魔でも見たような顔となる。


 「なめてんじゃあないわよ!!」


 三光輪でニエッタの顔面を斜めに切り裂いた。絶叫が洞穴内にこだまして、ニエッタは顔を押さえて膝をついた。


 「ほら、立ちなさい!」

 マレッティがブーツでニエッタを蹴り上げる。


 ニエッタは立つどころか、ひっくり返って血を振りまいてのたうち、やがてうつ伏せに震えて呻くのみだ。


 ニエッタはその背中にこれも三筋の深い切り傷を負わされ、がっくりと顔を冷たい結晶の地面へつけると、何も云わなくなった。マレッティの甲高い笑い声が、洞穴内に響いた。


 「じゃあねえ~」

 マレッティ、一人、漁師の待つ海岸へ凱旋する。


 コウモリが、凄惨でありつつも美しい結晶の世界に広がる赤い海を静かに見下ろしていた。



 3


 建物を踏みつぶし、なぎ倒して、超特大の大海坊主竜め、ていねいにコンガルの町をなめるように破壊した。誰かに命じられているのか、それとも、竜の意思なのか。しかし大きい。あんな生き物がこの世にいようとは。アーリーですら、あんな竜は初めて見た。


 アーリーは丘の一本道を駆け下りていたが、町へは入らずに道を逸れ、さらに港を見下ろす高台へ向かい、坂を上った。カンナが、あわててその後を追う。高台を一気に登りきると、ちょうど超大海坊主竜の顔の前あたりに出た。この距離で観てはじめて、がっぱりとした大きな口とは裏腹に、真っ黒でゴツゴツした溶岩の塊めいた鱗の合間に、本当に小さな小さな茶色い点が光っているのが分かった。あれがおそらく眼なのだろう。その体格に比べ、あまりにつぶらな瞳だ。


 アーリーはガリア、炎色片刃斬竜剣えんしょくかたばざんりゅうけんを出した。炎がふきあがる。アーリーはしばらく轟然とその場を行ったり来たりする怪物を高台より睨みつけていた。ときおり、口から猛烈な高熱蒸気を吐き、町の残骸を蒸す。町のあった場所からは、まるで温泉が湧いたように白煙が立ちのぼる。住民で生き残っているものはいるのだろうか? 


 カンナが息を切らせながらようやく追いついたころ、アーリーは重く云いはなった。

 「あの口をねらうしかないだろう」

 「えっ……口っ……!?」

 カンナが汗をぬぐう。

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