第197話 生きる巨岩

 「口を、どうやって?」

 「飛び道具しかあるまい!」


 アーリーがガリアを限界まで燃やしつけ、巨大な炎の塊を形成した。容赦のない熱気にカンナ、あわてて下がる。竜も気づいたのか、アーリーへむけてぐわり、とその三日月型の巨大な口を開いた。蒸気が立ちのぼる。


 「アーリーさん、あぶな……!」


 アーリーが炎熱のプラズマを叩きつけるのと、大海坊主竜が蒸気の塊を吐きつけるのと同時だった。アーリーの得意技、炎弾は蒸気を切り裂いて突進したが、竜が口を閉じて顔をやや下へ向けると、硬そうな鼻面がガッチリと炎を受け止め、爆発したがまるで効果があるような気配はなかった。逆に、アーリーは高熱の蒸気にまかれ、たまらず下がった。やはり、どうにもこの、熱水というのは勝手が違う。カンナもそのあまりの熱い湿った空気に、驚いてさらに坂を下がる。


 「アッツ……」


 アーリーは呻いた。あんなものをまともにくらっては、命にかかわる。炎には強いアーリーも、充分に注意しなくてはならない。


 「カンナ! 同時に波状攻撃をしかける!」


 アーリー、またもガリアに炎。カンナも少し坂を下がった場所から、黒剣を巨大な竜へ向け、共鳴を探した。すぐにガ、ガ、ガガガガ……! と大きな揺れが剣に伝わる。これまでに感じたことの無いほどの共鳴、いや振動だ。


 同時に、電流が沸き上がる。稲妻が発生し、球電が浮き上がる。


 崖の上からアーリー、そしてやや下がった中腹からカンナが、順に炎と稲妻を叩きつけた。さらに、カンナは返す剣で巨大な音の波動も飛ばしつける。ガ、ガアッ!! ガラララ……!! ドド……! 耳をつんざく雷鳴が響いて、さらに追撃の雷撃が幾筋も飛んだ。


 それらを全て受けて、特大の大海坊主竜はまるで本物の岩山めいてそこに泰然と立ち尽くしていた。


 「カンナ、まだだ! ガリアの限界まで攻めつづけろ!」


 アーリーが次々に大小の炎の塊を打ちつける。ただの炎ではない。竜へ触れた瞬間に爆発し、衝撃と高熱を与える。カンナの球電とて同じだった。大海坊主竜は何十という爆撃にさらされ、稲妻を浴び、炎にまかれ、さらに衝撃波の塊をくらってさすがによろめいた。


 だが、そのまま倒れるか、と思われたとたん、竜は身を翻し、長く太い尾が唸りを上げて崖の上のアーリーを襲った。地面が崩れ、岩が砕け、アーリーは吹き飛ばされた。


 「アーリーさん!」


 地面が揺れて、カンナも土砂の崩壊に巻きこまれかける。雪崩めいた土砂と、ゴロゴロと転がってくる巨岩にたまらず逃げた。


 アーリーもすぐに立ち上がって、油断無く下がる。

 二人は離れた場所で合流した。


 「……なんという竜だ。あんな大きさでは、我々の攻撃もあのていどしか効果がないとは……まさに生命力の塊だ。世の中は広い……」


 アーリーは感心したように、小さなため息まじりで超特大の大海坊主竜を見つめた。

 「あいつ、身体が硬すぎるんですよ!」

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