第180話 デリナよりの連絡

 「……あの凍結売女……!! 次に会ったらズタズタに切り裂いてやるわ!! 脳天から爪先までなますに切り刻んで、海にぶち巻いてカニのエサにしてやる……!!」


 昂奮し、いまにも飛び出てゆきそうな勢いだが、まだ足が立たない。おとなしく横になり、女房がこしらえた滋味ある魚肉団子のスープを食べて体力を回復させる冷静さがあるのは流石だった。


 「しばらく面倒をかける」

 アーリーは、居酒屋の親父へさらにカスタ金貨を二枚払った。

 「こんなに……! と、とんでもないことで……」

 親父がうやうやしく金貨を押し頂いた。



 その、翌日だった。


 マレッティが窓の外を眺めながらゆっくりと、かつ悶々として殺気を研ぎ、シロンへの復讐の方法を練っていると、海の向こうより風に乗って何かが飛んできた。さいしょは海鳥かと思ったが、その独特の影にマレッティは息を呑んだ。


 (竜だ……でも、なんの竜!?)


 見たこともない小型の竜で、丸っこい身体に細くて長い翼を持ち、首と尾が短い。全長は二キュルトほどだが翼長は十キュルト半はあろうか。それが高々と天を舞って、やがてマレッティの視界から消えると一直線に降下して窓の下にへばりついた。驚いてマレッティ、窓を開けると、竜はガサガサとかぎ爪をたてて木板の壁を登り、意外に愛らしい丸い目と顔つきでマレッティの部屋に入ってきた。何事かと思ったが、その首に括りつけてある金属環の通信筒に、小さな黒竜紋が刻まれているのを発見するやマレッティ、奪い取るようにその蓋を開け、中より竜の側の世界で使われている竜皮紙を取り出した。すぐさま、竜は窓より飛び去った。


 それは小さなメモで、なんと、デリナからの通信だった。

 見慣れぬ文字をマレッティは食い入るように読みこんだ。


 そして、膨らませた両手の中にその密書を収め、ガリアの光輪を小さく幾重にも掌内に出して粉微塵に切り刻むと、窓から投げ捨てて風に飛ばした。


 そして、黙然と考える。

 「なるほど、そういうこと……」

 マレッティの目つきが変わった。

 「アーリーのやつ……なめたまねを」

 その殺気の行き先がシロンからアーリーへ変わる。


 

 1

 

 アーリーが「あけのパーキャス」という組織を知ったのは、竜退治の出張所でのことだった。マレッティはまだ横になっているし、情報を集めに日参していた。そこで、一人の三十半ばほどの男と出会ったのだ。


 男は、アーリーを待っていたと云った。

 「あなたが! ……サラティスの……カルマの……ダール……の……」


 男は、話には聞いていたが、じっさい見るとその迫力に圧倒され、最後は声が聴こえなくなった。背が高く筋肉質で無精髭の、いかにも強面の漁師だったが、アーリーに比べればそこらの小僧とさして代わりは無かった。


 「アーリーだ」


 アーリーが男より大きな手で、しっかりと握手をした。このまま手が握りつぶされると男は思った。

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