第179話 アーリー帰還

 「フン!」

 地面へ座らせ、背中へ当身と火の気を叩きこむと、

 「……げえへぇッ!! ゲホオッ、グボッ、ゲホッ……!」

 水を吐き、マレッティは息を吹き返した。

 しかし意識は戻らない。

 マレッティを抱え、アーリーもゆっくりと道を戻る。



 翌日にはバーレスへ帰る予定だったが、宿で休み、朝になって港へ行くとリネットが船ごといなくなっていたのでニエッタは驚いた。


 「どこにいっちまったんだ?」

 手分けして聞きこみをし、夜にカニを捕っていたという若い漁師を見つけた。


 「そういや、九つ前ころ何人か人を乗せて、慌しく出て行った船があったな。暗いのに手馴れた感じで、たいした腕だった」


 と、云うではないか。

 ニエッタは顔をゆがめた。シロンたちだろう。

 「船を奪われたか」

 振り返ってニエッタ、腰を抜かして驚いた。

 「アッ、アーリー!! 生きて……!!」

 「お前こそ、よくぞ無事だった」

 マレッティを抱えたまま右手を出し、アーリーがニエッタを立たせる。

 (そ、そうか……アーリーには、まだ……)

 バレてはいない。ニエッタは息が止まりそうだ。

 「なんとかバーレスへ帰りたい。休養して、カンナを助けなくては」

 「えっ? あいつ、生きてるのかい?」

 「恐らくな……」

 アーリーと再会したパジャーラも、ガタガタと震えだした。汗がすさまじい。

 トケトケだけが、そ知らぬ顔だった。

 新しい船を雇い、五人はとにかくも、バーレスへ戻った。



 「じ、じゃ……あたしたちは、本当にこれで……」


 夕刻、無事にバーレスへ到着し、ニエッタとパジャーラはそそくさと消えた。トケトケが、アーリーの顔を凝視し、きつい口調でこう断言した。


 「あの、カンナって子、あんな人種はウガマールにゃいないわけ。雰囲気も変だし……あれは……きっとバグルスかなんかよ。気をつけたほうがいいと思う」


 鼻を鳴らして、行ってしまう。

 「……わかっている……」

 アーリーが鋭い目つきで、風にたなびくトケトケの黒髪を見つめた。

 


 バーレスにて居酒屋の親父に借りている仮寓へ入り、マレッティは二階の部屋で親父の女房に看病された。翌日の午後、唐突にマレッティが飛び起きて意識を取り戻した。


 「ア、ア、アーリーさん!」


 女房が、同じく二階に割り当てられた部屋で瞑想していたアーリーを呼んだ。マレッティは自分の境遇を理解するや、見る間に顔が怒りと憎しみと殺意と復讐心で紅潮した。

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