第171話 覚醒

 「あなたにとっては懐かしい味かしら? ここじゃ、みんな貴重なものよ」

 「あ、でも、わたし、お酒は」

 「ルネーテ、水で薄めてちょうだい」

 てきぱきとルネーテが立ちはたらく。

 「蜂蜜酒ミードもあるわよ。さ、遠慮しないで食べて」

 確かに、遠慮していてもしょうがなく、カンナは云われるがままに料理へ手を着けた。

 うまかった。同じような料理なのに、やはり高い食材は単純にうまい。


 ギロアはこの体格なのに小食で、たわいもない話をしながら、満足そうに大食のカンナをみつめていた。


 異変は、突如として訪れた。


 雨が強くなった。窓の外が夜のように暗くなり、ルネーテが燭台を用意して、蝋燭へ火を点けた。広間に、幻想的な雨音と蝋燭ロウソクが浮かび上がる。


 「で、どう? カンナ。竜と暮らしているこの島の人達を見て、どう思った?」

 「どう……って……そうですね。新しい、わたしの知らない生き方をしていました」

 「竜は、無理に退治しなくても良いと思わなかった?」

 「ええ、そういうふうにして……生きていく人もいるんだろうな、って」

 「そう感じてくれてうれしいわ。見込み通りね、カンナ」


 カンナは、うまく話しているつもりだった。バルビィの云う通り、アーリーの生死が分からない以上、どっちにしろここはギロアの仲間になるふりをして、しのがなくてはならないだろう。すました顔をしているが、内心は緊張で倒れそうなほどだ。


 あまりに鼓動が高まったためか、急にめまいと頭痛がしてきた。


 「カンナ、その恐るべき力……竜を倒すためじゃなく、竜のために使ってみない? ガラネル様のため……私たちの仲間になって……ちょっと、どうしたの!?」


 ギロアが立ち上がる。


 カンナの眼が不気味に光っていた。まるで竜の発光器だ。その深く濃い翠の眼が、内側から電光に照らされているように、蛍光の緑に明滅している。


 「カンナ!?」

 カンナは明滅する眼で眼鏡越しに虚空をみつめ、何かを延々とつぶやいていた。

 「竜は……殺す……竜は……殺す……竜は……殺す……」

 「カン……!!」


 ギロアが本能で恐怖を感じ、シロンたちを呼ぼうとした瞬間、カンナが立ちあがって、想像もつかないような狂気めいた金切り声をあげた。


 「竜はああ皆殺しだああああああ!! アーッ!! アアーッ!! アーーーッ!! 竜に味方するやつらも、全員殺してやるううーーううーうああッ、アッ、あああああーッ!!」


 バ、バ、ババ、バッ! カンナより電光がほとばしる。ガガガガガ、ゴルァガラガラアア!! 強烈な振動がして空気が打ち震え、室内で雷鳴が轟いた。いっせいに窓が割れた。

 「ルネーテ、逃げ……」

 ギロアが驚愕して硬直しているルネーテへ振り返ったとき、

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