第155話 竜の誘い
「デリナは、その二つ名の『黒衣の参謀』の通り、ダールの中でも一番の策謀派なの。そのかわり、戦闘力はいちばん弱いのよ」
「え……そうなの……!」
と、云いつつ、カンナはデリナが槍のガリアで戦うとき、まるで素人のような動きをしていたのを思い出した。槍そのもので戦わなくとも、あの毒霧の力で大丈夫だからなのだと思っていたが。
「ま、弱いといってもダールだから、そこらのガリア遣いでは話にならないけどね。いちばん強いのは『炎熱の先陣』、攻めと侵略を司るアーリーよ。あの人には、さすがのわたしも勝てないわねえ。まともに当たったら、の話だけど。あの人は真正面からしか戦わないから、やりようによっては、勝機はあるわよ」
「やりたいとも思いませんけども……」
カンナはアーリーやデリナの変貌した姿を思い浮かべた。真の半竜人と化した、いや、半神ともいうべき姿となったあの二人を。
「だけど、そんなダールとまともに戦ったのが、カンナ、あなたなのよ。まだ、完全にその自分のガリアを遣いこなしてるわけじゃないから、まだまだ強くなるわよ、あなたは」
「そうだと……いいですけどね」
「知ってるわよ。バカで愚かなサラティスの人間は、あなたに感謝するどころか、疎ましく、恐ろしく思ってるんですって? 冗談じゃないわ。侮辱よ。あなたに対する侮辱。ね、だから、竜の国においでなさい」
「でも、あんなに竜を倒して……デリナともあんなに戦ったのに」
「あ、心配はいらないから。竜の国って云っても……こんなこと、云っていいのかどうか分からないけど……我々竜の側としてはね、別にみんな完全に味方同士ってわけじゃないから。いまは、たまたま目的を供にしているだけで、特にダールは本来相争う関係なの。七人が七人ともね」
「へえ……」
そいつはいいことを聴いた。そんな気がした。
「だから、デリナと互角に戦ったあなたをガラネル様が味方に引き入れたいと思うのは、当然のことなのよ。ガラネル様は、死を支配するべき力を持った強力なダールよ。本来、ダールを支配する特別な地位と力を持った御方なの。参謀のデリナや先陣のアーリーとは格がちがうわ。ましてホルポスみたいなガキとは、ね。バセッタは代々基本的に中立を旨とする青竜のダールだけど、味方にしたらその導きの力で有利にことが進む。だから、まず我々に探すようにと。こんな辺鄙な場所にいるらしいとは、ガラネル様もご存じなかったようだけど」
「そうなん……ですか」
「さ、まず話はこれでおしまいかな。急に云われても、判断がつかないでしょ? しばらくコンガルで暮らして……コンガルの人々と触れ合ってみて。竜と人が共存するっていう価値観が、なんの違和感も無く浸透してるのがわかるはずよ」
ギロアが席を立った。
「バルビィ」
「はいな」
「カンナを家に案内してあげて」
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