第136話 バグルスの疑い

 「い、いい、いえ! わたしはそんな、りゅりゅ、竜となんて、仲よくというか、竜を手なずけるなんて、ででっ、で、できませんから……!!」


 「ふうむ……」


 アーリーがまた眼をつむり、腕を組んで考え出した。カンナとおやじが不安げに待ち、マレッティは、がばがばとエールを流しこむ。


 「よし。分かった。そいつらを見極めるだけはしよう。好んで戦わないがな。我々のガリアは、竜を倒すためのものだから。しかし、降りかかる火の粉は払うぞ」


 おやじと女房が何度も祈る仕草をして、感謝の意を表した。酒場の隣の空き家へ三人を案内し、ただで使ってくれと云った。彼の持ち家のようだ。もっとも最初にアーリーの払ったカスタ金貨で、充分に賃貸料も払える。


 二階に部屋がちょうど三室あったが、まず一階の居間におちついた。マレッティが酔ってはいるが、腕を組み、アーリーを見すえた。


 「アーリー、どういうつもり!?」

 「分からないか?」

 「わからないわよ」

 「カンナは?」


 「えっ!? ええと……もしかして、その……わたしに雰囲気の似たガリア遣いというのは……バグルス……とか……」


 マレッティが感心して眼と口を丸くする。

 (こいつ、自覚してたんだ)

 であったが、それは表に出さず、

 「ははあ……なるほどねえ」


 「そういうことだ。そのギロアとかいうやつ、ガリア遣いでは無いと観た。少し、滞在してみる価値はあるだろう?」


 アーリーがにやり、口元を曲げる。


 潮風がドアの隙間から入り込んで吊り下がっているランタンを揺らし、アーリーの影を左右させた。



 7

 

 翌日、マレッティとカンナは早くから起き出して裏の冷たい水の井戸で顔を洗い、風が強いために着込んで、市場へ向かった。当面の食料でも買おうと思ったのだ。


 市場には、魚介しか売ってなかった。

 「晩秋といっても、根菜も売ってないのかしらあ」

 「島で、畑は作ってないんですかね」

 「ピクルスでも買わない? ……それも無いのねえ。なによこれ、豆ばっかり」


 しかし、干したハーブ類だけはやたらとあった。中には、牧草めいた乾燥ハーブの塊が軒先にいくつも転がっている店もある。みな、冬期の野菜はこのハーブで賄っているようだ。


 「こんなもの買ったって、料理なんかできないわあ。ま、朝食だけ買って帰りましょ」

 二人は島のハーブとヒヨコ豆の入ったパンを買い、借家へ戻った。

 「なんでパンに豆が入ってるわけえ?」

 「いや……さあ……」


 戻るとアーリーも起きており、ささやかな朝食をとる。それから、バーレスで雇ったガリア遣いがいるという、サラティス・ウガマール合同竜退治事務所パーキャス出張所へ向かった。

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