第104話 裏切り

 ガリアは、鏡のような大きな楕円形の盤だった。かなり外縁がゆがみ、その鏡の部分もかすれていた。マレッティは鏡へ映る自分の顔を覗いていたが、やがて、そこには違う人物が映りだした。


 それはなんとデリナであった!

 「うわあ……色がついてない……そろそろこいつもダメかしらあ……」


 鏡の中のデリナは、白黒だった。もともと白黒みたいなものだから、あまり違和感は無いが。椅子に座って、やけに暗い部屋にいる。


 「もしもしい? デリナ様あ? 見えますう?」

 「……ああ、見える」


 デリナは、前よりか、いくぶんか雰囲気が変わったようにマレッティには思えた。口調がやや穏やかだ。


 「良かった。おっつかれさまあ、デリナ様あ。今回はちょっと……惜しかったですわねえ」

 「惜しい……か」


 デリナは自嘲を通り越して、高らかに笑ってしまった。そんなデリナを初めて見たマレッテが戸惑う。


 「いや、なに……今回は小手調べよ。北では、冬にもストゥーリア侵攻が始まる。大侵攻は、始まったばかりだ。同時かつ多発的に」


 「やっぱりぃ!?」

 マレッティの顔が狂気めいた笑顔に包まれた。


 「モールニヤの報告は、本当だったんですねえ。じゃあァ、ホルポス様があ、とうとう竜側として参戦なさるのねえ」


 「そういうことだ。あの白竜の孫娘が……重い腰をようやく上げおった」

 「たのしみですう。ストゥーリアの連中がたくさん死ぬのを想像すると」

 マレッティが含み笑いに耐えきれず、腹を抱えて笑いだした。

 「そんなに楽しいか。自分の生まれ故郷が竜に侵攻されるのが」

 「生まれ故郷なんて、とっとと滅びればいいんだわ」

 デリナが満足そうにうなずく。

 「また一人、どさくさにまぎれ、うまく始末したな」

 マレッティがにんまりと眼を細めて口を歪め、腕を組んで斜に構えた。


 「ええ。ずっと同期でカルマにいたけど……いささかあのバカさ加減に付き合いきれなくなりましてえ」


 「以前に始末した……オーレアとかいう奴原がごとく、我との関係を悟られていたのではあるまいな?」


 「それはだいじょおぶですう。あいつは、そんなことまったく気にしない、心底のバカでしたしい」


 「ならばよい」


 デリナがまた静かにうなずく。マレッティがそのデリナへ向かい、腰に左手を当て、右の人指し指をつきだして、


 「勘づいてるといえばあ、先代の跡を継いだ事務長が……ここを知っているかどうかが重要ですう。……そのうち、消しておきますけどお」

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