第100話 決着

 (……やれるか……!?)


 デリナはまだかろうじて余力があった。いまなら、カンナの土手っ腹をこのガリア「骸煙波毒黒檀槍がいえんはどくこくたんそう」で貫けるやもしれない。


 いや……だめだ! 


 流れてきた雲に隠れたカンナが、光っている。細かな水の粒子がぶつかりあう振動と微弱な静電気を、カンナのガリア「雷紋黒曜共鳴剣らいもんこくようきょうめいけん」が吸い取っている。カンナの力が見る間に回復してゆく。雲の中で無尽の稲光がし、瞬時に空気を引き裂いて雷鳴がとどろく。その音をガリアが吸い取っている。ゴゴゴゴゴ……!! ガリアの音がデリナのところまで聴こえてくる。この雲の中のこの状況では、カンナは自然の力を無限に吸収し、無敵だ!


 「来る!!」

 デリナは身構えた。

 「……ふぅぃゃあああぁああ!!」


 カンナの眼が、蛍光翡翠に光っていた。口からも光を吐き出している。後光めいて稲妻が竜のようにカンナの背中から翼となって伸びた。轟鳴が凄まじすぎて、逆に何も聴こえない。


 カンナの雄叫びは雷音となって竜の咆哮と化した。

 「この……馬の骨めが!! 負ァけえぬわあああ!!」

 デリナが最後の力をふりしぼった。全身から漆黒の炎と毒煙が吹き上がった。


 互いに雄叫びともとれない叫びをあげ、黒剣と黒槍、雷鳴と毒炎が打ち合わされる。最終的な炸裂の光と爆音がほとばしり、ガリアが互いに共鳴し合って広がり、その共鳴音が一瞬で消え、瞬間の静寂の後、再び膨れ上がった。


 雲が爆発した。


 二人はこれまでで最大の爆風と衝撃に跳ね飛ばされた。そのまま光の粒と炎の破片にまみれ、煙をふきながら、雲を突き抜けて落ちた。それから互いのガリアが光を放ち、落下速度をゆるめた。二人はゆっくりと、宙を沈殿した。


 カンナはゆらゆらと落ちてきて、背の低い草むらにふわりと横たわった。地味な麻の服は戦いでズタズタだったが、髪や身体はほぼ無傷だった。黒剣が、その右手に握られたままであった。完全に気を失っている。水晶の眼鏡はひしゃげ、割れ、ぶっとんで既に無い。


 デリナは、離れた場所の、背の高い草の密集している藪に膝をついてうずくまった。デリナの意識はあった。腹が苦しげに呼吸で波うっている。しばしそのままだったが、やがて髪を振り乱し、槍を杖として寄り掛かりながら、なんとか立ち上がった。身体は元の大きさへ戻り、右足を引きずって歩くたびに、バラバラとその黒い鱗が剥がれ落ちて、元の、カンナにそっくりな、漆喰じみた乳白色の肌が現れる。全ての鱗が落ち、全裸のまま、槍へ両手でもたれかかり、カンナをめざして進んだ。

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