第83話 発見さる

 「五体ほどだな……」


 「さっすがねえ。あたしも一匹、いや、二匹かな……やっつけたわよお。でも、全部で二十くらい、いるんでしょう?」


 「もっといる可能性はある」


 「どうするの? そいつらが都市に侵入したら……一日……いや、半日もかからないでサラティスは陥落よお」


 「この戦いは、竜と人の戦いの歴史の上で、重要な位置づけになる。ガリア遣いは常に個として戦ってきた。人の心は、いくら集まっていても、結局は個だからな。心から生じるガリアは、個でしかない。また竜も、個として人を襲っている。これは、初めて集と集で竜と人が戦うものだ」


 「むずかしいことは分からないわよお! カンナちゃんはいつ復活するの!?」

 アーリーとマレッティが炎の下で眠るカンナを見た。

 「火の高さが半分になった。つまり……あと半分だ」


 「昼前にはなんとかってところ? それまで敵がバグルスを温存してくれればいいけどお。……ねえ、アーリー、あたしがカンナちゃんを見張って、起きたらすぐ加勢するから、先にアーリーだけ攻めこんだら?」


 「いや」

 アーリーは即座に却下した。

 「この戦力をさらに分断するのは得策ではない」

 「たしかに……」

 側面攻撃なら、アーリーとマレッティの二人で一気に攻めたほうが効果的だろう。


 「じゃ、昼まで待機ってことでいいのねえ? それまで、敵のダールがバグルスを出さないことを祈りながら」


 「いや……」

 「どっちなのよお!?」

 「楯が来る。カンナを護る楯が」

 マレッティが苛ついて目元へしわを寄せた。何を云っているのか、まるで理解できない。

 「楯が来るまで待て。来たら、楯へカンナをまかせ、即座に我々は出撃する」


 マレッティは答えなかった。やおら、ガリアを出すと、光がほとばしる。光輪がアーリーを襲った!


 アーリーは何も驚かず、首をかしげて光輪をかわした。アーリーの紅い髪が少し切れて舞う。しかし、光輪が狙ったのは、アーリーの頭の後ろを飛んだ、小さな鳥のような生き物だった。音もなく真っ二つになって地面へ落ちる。


 野太い羽音がまだあった。アーリーも右手を振り回し、その手から炎が吹き出た。スズメほどのと大きさの竜が火に巻かれ、これも地面へ落ちる。


 マレッティが厚い野外ブーツの底で、その燃えて暴れる小竜を踏みにじった。

 残りは急激に羽音が森の奥へ遠ざかった。

 「見つかったわよ、アーリー」

 マレッティが冷たく云い放った。

 「バグルスがこっちに来るんじゃない?」

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