第40話 音の玉

 アートが軽く吹き出した。

 「知らないよ、そんなの。竜なんだから、バスクだろうとなんだろうと人を襲うだろう」


 「ところが、隊商を襲っても護衛のバスクだけ殺す竜がいるの。都市政府では、駆逐竜と分類した。対バスク駆逐竜」


 「……へえ……」

 さしものアートも、声の調子が少し変わった。

 「そんなやつが、ねえ……」


 「政府の斥候がそいつを一頭、見つけて、退治の依頼を。だけど、得体のしれない竜の退治に、誰も補助に来なくて……」


 「傷ついたわあ。わたしたちの信用って、そんなもんだったのかと」


 二人があからさまに肩を落として嘆いた。アートがその二人の合間に入って、二人の肩を抱き寄せる。


 「大丈夫だって! 荷の重い退治の補助は、、このアートにおまかせ!」


 「防御だけはカルマ級って聴いてるわよ! 期待してるから!」

 三人が笑う。クィーカも嬉しそうにその三人の後ろ姿をみつめていた。


 カンナは、しかし、何か違和感があって笑えなかった。すぐに分かった。ずいぶんと和気あいあいとしている。コーヴは、たしか千人程もいるサラティスのバスクとセチュを合わせたガリア遣いの中で、五十人程だとマレッティが云っていた気がした。カルマほどではないが、バスクのエリートである。そのわりに、モクスルでも下の方のアートに対し、何のわだかまりもない。仲間意識のある気さくな雰囲気を強く感じる。やはり、カルマだけが特別なのだろう。


 (わたしも、がいいなあ……)

 正直にカンナはそう思った。


 しかし……そうは云っても、もしかしたらこの退治で呆気なく死んでしまうかもしれないというのに、この明るさはなんなのだろう。それも、違和感としてカンナは心にひっかかった。刹那的なのか。諦観なのか。それとも死生観が違うのか。


 (バスクって、良く分からない……)

 「カンナ、大丈夫? 疲れてる? ふご……」

 塞いでいると、クィーカが話しかけてきてくれた。

 「ええ、大丈夫。ありがと。ねえ、クィーカはどんなガリアを?」

 正確には、一体全体、どんなガリアだったら可能性が3という数字になるのか。

 「ふご……正直、戦いにはぜーんぜんっ向いてないの」


 そう云って、クィーカが手に納まるほどの鉄の玉を出した。カンナはクィーカの掌を覗き、これがクィーカのガリアだと分かった。これで、どのように戦うのか。この玉を自在に飛ばし、相手にぶつける、とか。


 クィーカが玉を口に当て、何か話すしぐさをした。

 「もしもし? わたしカンナよ、よろしくね」


 突然、明後日の方向から自分の声がして、カンナは驚いて振り返った。とたん、地面につまずいて倒れそうになる。メガネが豪快に鼻の下へずれた。クィーカが楽しそうに笑った。


 「ふごふごふご……! これは、モノマネと腹話術です。『音の玉』って呼んでます。竜は……これでは死にません。ふごっ」

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