とうもろこし、玉蜀黍、コーン。

 八月三十一日は「八三一(ヤサイ)」と語呂を合わせて「野菜の日」だという。

 一般に「野菜」というとキャベツやレタス、あるいはホウレンソウなど緑色の葉物を真っ先に思い浮かべる人が多いだろうし、そう書く自分もその一人だ。

 だが、八月の終わりによく見かける、口にした思い出も多い「野菜」というと、とうもろこしが浮かんでくる。

 さて、とうもろこしは野菜か、果物か。

 ネット検索すると、ハッキリするどころか、そこに穀物という分類が新たに加わって、余計に分からなくなる。

 そもそも漢字で書けば「玉蜀黍」だから「黍(きび)」の一種だ。

 温かなコーンポタージュを啜れば、確かに「穀物の粥」という滋味が感じられる。

 塩味の効いたポップコーンを噛み締める時の、その歯応えも「穀物の種」という感触だ。

 しかし、茹でたとうもろこし一本にかじりついて飛び出す甘い汁を味わえば、この植物の印象は限りなく「果物」に近づく。

 付記すると、漢字の「玉蜀黍」よりひらがなの「とうもろこし」の方が茹でたての温かな甘い粒のびっしり詰まった一本のイメージに似つかわしく思えるし、一般に「とうもろこし」の字面から連想されるのもそのイメージだ。

 その一方で、バラバラにされた鮮やかな黄色の粒がサラダを彩っていると、「野菜」の仲間として扱うことにも疑問が無くなる。

 料理次第で「穀物」にも「果物」にも「野菜」にもなる、そんな多面性が「とうもろこし」の持ち味であり、また魅力でもあるだろう。

 話は変わって、三十五歳の自分が幼い頃、とうもろこしと言えば真っ黄色の粒の並んだハニーバンタムが主流だった。

 それが小学校の低学年辺りから黄色と白の粒の混在するピーターコーンが出てきて、夏になると母が茹でて食べさせてくれるおやつの定番になった。

「この白い粒は黄色より甘いのかな? それともちゃんと黄色い方がやっぱりきちんと熟していて甘いのかな?」

 スイカの赤と黄色と同じで実際は口の中に入れば同じ味がするのに、どこかに微妙な違いがある気がして一粒一粒を慎重に食べるようになった。

 ピーターコーンという種に関して言えば、先行のハニーバンタムよりも甘みの強い、その点で改良された種との印象を子供心にも持った。

 今、住んでいる横浜の店で見かけるのは粒の一様に黄色い種が主だが、恐らくこれは旧来のハニーバンタムではなく、また別の改良種ではないかと素人目にも察せられる。

 実際、「玉蜀黍」のウィキペディアを見ても、ハニーバンタムは市場から少なくなっているとの記述がある。

 一見すると同じ「粒が全部黄色のとうもろこし」であっても、いつの間にか新旧交代した種になっていると想像すると、何となく不気味なものも感じる。

 話は再び変わって、とうもろこしを使ったスナック菓子といえば先にも挙げたポップコーンが世界的な代表格だろうが、私の子供の頃は「とんがりコーン」の方が人気もあり、カルビーの「ポテトチップス」とハウスの「とんがりコーン」がスナック菓子の双璧というイメージだった。

 軽い塩味と触感のポップコーンに対して「とんがりコーン」は焼きもろこし風のこってりした味わいだ。

 何より、三角帽子の形をしたスナックを指に被せて先端から齧っていく食べ方をするのが楽しかった。

 ちなみにポテトチップスはビニル袋に直接包装されているが、「とんがりコーン」はビニル包装した上で固いボール紙の箱に入れる二重包装の体裁だ。端的に言って、「がさばる」造りだ。

 ポテトチップスはミニサイズも売っているが、「とんがりコーン」に関してそうしたものは見かけない。

 出先で少量つまむことも想定したポテトチップスと比べると「家に買い置いて食べる」用途に特化した商品と言える。

 そのせいか、大人になるにつれ自然にポテトチップスほど食べなくなってしまった。

 とうもろこしに纏わる記憶を辿ると、子供の頃より食に関して丁寧になった面と却って楽しむ余裕がなくなった面とが浮かび上がってくる。

(了)

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