第10話
今回の僕の敵は意外にも盾を持った騎士タイプの戦士だ。実のところ彼らが僕にとっては絶好のごちそうに近い。地面まではガードできないからなー。
「
なぜか記憶がないはずなのに体はしっかりと感覚を覚えている。そのせいで考えるとどう動かせばよいのか困惑するけれど、そのおかげで苦労は少ない。……いや、間違いなくいつか苦労するな、コレ。
僕が敵を転ばせ力任せに吹っ飛ばした時には、2人とも自慢の技で敵を黒こげにしたり、水びたしにしていた。僕は笑みを浮かべて2人と合流する。
「ずいぶんと慣れてきたのではないか? その証拠に連携の判断が徐々に早くなっている気がする」
「そ、そうですか? それならよかったです。みなさんのおかげですね」
「ダメだよシオンをあんまり褒めたら。この前だってそのせいで危ないところだったんだから」
「ハハハ......」
僕は褒められると調子に乗って、いつもしたことのない行動に出てしまうことがある。そのせいでミカロに飛び込んでしまったり、連携に穴をあけてしまったこともしばしばあった。
そのせいかミカロは僕と連携を共にすることが多くなり、彼女は僕の気持ちを抑えるストッパーとなってくれた。彼女は僕のためを思って行ってくれたのだろうが、いつもお世話になっていると考えると、なんだか心の中が歯がゆい。彼女は時に甘えることも必要だ、そういっていたが、このままはマズい。
本でメモした恐ろしい事柄がある。ある場所で管理されている象は子供の頃に大きな鎖を足に付けられ、絶対に逃げないようにされる。彼はそれを認識し、大人になってその鎖が錆つき足の幅よりも小さいものになっても彼はそれを破壊しようとはしない。子供の時に得た結果をそのまま受け継ぎ、自分は鎖を壊せないと錯覚してしまうのだという。このまま甘えたら僕は限度がわからなくなってしまう。
僕は幾度となくミカロに断りを入れるのだが、決してそれを認められることは無かった。
仕方なく負けを認め、僕たちはファイスたちの向かった方向を歩く。けれど無数の矢が道を塞ぎ、見えないハンターたちが僕たちに存在を現した。
「何か策はあるか?」
「燃やす以外なら」
「正面突破ですね。止まっているわけにはいかないですから」
「悪くない」
ナクルスは手順を確認するまでもなく、ファイスたちの向かった場所にまっすぐ突っ込む。危険なことは承知だ。正面突破に普通のルールは通用しない。ただ避けて避けて距離を詰める。それだけがルールだ。
ナクルスは全身に火を灯し、打ち放たれた矢や銃弾を全て無効化した。“彼ほど正面突破に向いている味方はいないだろう”きっとミカロもそう思ったに違いない。彼女は口を開けたまま動こうとしなかった。
「シオンはあんなことできないよね?」
「はい、それが普通ですよ。といってもミカロもアクエリオスの能力で同じようなことができるじゃないですか」
――あ、そうか――そう言っているかのように彼女は頬を触り、考えをまとめているように見えた。マジか。考え付いていなかったのか? いや、きっとミカロの事だから無意識にそういうのをやってのけてしまうのだろう。
僕たちはナクルスに置いて行かれまいと彼を追いかける。ナクルスへと向けられていたはずの攻撃はなくなり、僕たちの元に銃弾が迫ってきた。
矢は鉾を回して弾き、銃弾は正面に跳ね返して相殺する。ミカロは案の定浮かんだ銃弾まみれの壁で着実に僕との距離を縮めていた。
便利だなぁ2人の能力。でも、非日常的な能力だから結構体力を使うのかな。今度聞いてみるとしよう。
僕は敵に接近する速度を上げ、ナクルスは右、僕は左の敵に飛びかかった。彼らは距離を取るように後退するが、確実に1人ずつ仕留めていく。
遠距離専門なせいか彼らは不意打ちに弱く、寸止めで意外と気絶してくれた。残りは面倒くさいからアースクエイクで処理し、ミカロと合流した。
ナクルスは気分が乗ってきたのか、不死鳥の攻撃で敵全体を蹴散らし火事を発生させた。ミカロがいたおかげでなんとかなったけれど、本当だったら僕らも丸コゲだっただろう。
「いくら自分に有利だからって調子乗りすぎ! 私がいなかったらどうなってたかわかるでしょ?」
「ミカロがいるからそうしたのだ。その方が手っ取り早いのでな」
「……」
ミカロは彼からそっぽを向き機嫌を悪くしているようにも見えた。けれど違う。肩が震えている。きっと頼られているのがうれしいのだろう。確かファイスによると彼女は頼られるとやる気が100倍になる、と言っていたから、そういうことだろう。
今度僕も使ってみようかな。あんまり連続だと疑われそうだけど。
「まぁいいんじゃない? 私のアクエリオスの力はすごいし? 信じてくれたなら、別に何も言わないけど?」
彼女の言葉は断片的だけれど、多分感謝しているのだろう。彼女は僕たちから目を背けつつも、頬を赤く染めた。僕たちはそれに互いに目を合わせ、してやったりの顔をした。
僕たちは敵がいないことを確認し、島の中心へとやってきていた。そこには大きなマンホールのようなものがあり、開けるとそこには地下に通路のようなものがあるのが見えた。ファイスとフォメアはきっとここを通ったに違いない。
――行きますか――そう思った時、彼女は頬を先ほどよりも赤く染めた。そんなに信頼されていることがうれしいのだろうか? いや、きっと別の理由だ。
「ミカロ、顔が赤いですけど大丈夫ですか?」
「ふえっ!? 別にその......問題ないよ! ちょっと熱いだけだよ。きっと」
「もしや、まだアレを気にしているのか?」
アレ? アレってなんだ? 僕がナクルスに尋ねようとしたときには、ミカロが彼を睨みつけていた。――シオンには言わないでよ!――そう言っているような気がした。だが気になってしょうがない。ここはひとつ方便でも使えば納得してくれるかもしれないな。
僕は彼女が降り立ったタイミングでナクルスに答えを尋ねた。すると、その答えは簡単なものだった。ファイスたちは僕が加入する前に地下の調査をしたことがあったそうで、ミカロは警戒して一番最後に入ってきたのだけれど、そのときスカートだったせいで下着が見えてしまったのだという。
確かにそういえば僕は彼女がスカートをしているのを見ていない。きっとそれがトラウマになって思い出させてしまうのだろう。僕としては気にするようなことではないことに思えるけど。
ミカロは僕たちのやりとりを聞きつけ僕たちの元へと戻り、僕の胸倉をつかむ。彼女は突拍子もなく乱暴をするのは理解していた。けれどこれはしょうがない。ここは素直に受け入れよう。
「だから言わないでって言ったでしょ! スカート穿こうとするたびに思い出しちゃうんだから」
「そうだったんですか。ミカロはいつもショートパンツばっかりでスカートを着たら似合うのになーと思っていたんですけど、そういう訳だったんですね」
僕の言葉を聞くと彼女は僕への睨みと手の力を止め、頬を赤く染めた。ミカロは女の子だ。身だしなみや普段との変化を指摘すれば、だいたいは許してくれる。むしろ気づいてほしいものだと僕は思っている。
彼女は僕から目を逸らし、ボソッと――そ、そうかな?――とつぶやく。
「僕はミカロのスカートを着た姿、見たいですよ。きっと綺麗な足が見えてピッタリでしょうし」
「シオンに言われなくてもわかってるわよそのくらい! 私じゃなかったら騎士団呼んでるから、気を付けなよ」
ハハハ......悪い冗談だ。そう思いたいところだけれど、リラーシアさんにさっきの言葉を告げたらきっと――セクハラですか、いい度胸ですね――と言って剣で僕の髪を斬り落としそうだ。
彼女は特殊なケースだけれど、素直でないミカロだからこそこの方法はうまく通じる。気をつけないと自爆してしまうだろう。
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