第9話
リラーシアさんはミカロにデータを送ったというので、僕たちは正星議院のロビーへと戻り彼女のリストを見た。セレサリアさんと協力関係にあるクエスターがある島に調査に行ったものの報告がなく、正星騎士団としても出動するかどうかを決めあぐねているのだという。そこで僕たちはそこへ侵入し、その人の安否を確認する、というものだった。
2人で本来1人が見るべきデータを覗いていたので、ミカロは距離感を気にしたみたいだ。まぁ僕は緊張でそれどころじゃなかった。言ってしまった。もし失敗したら理不尽にも剣を向けられるのは間違いない。
けれど救出するだけならわざわざ戦わずに済む。敵の背中を取って気絶させてやればなんとかなるだろう。
僕はファイスたちに話をしてそのクエストに挑むことにした。リラーシアさんも思っているより乗り気なのかもしれないな。自分の実力が認められているのに気が付いて簡単なクエストを選んでくれたのだろう。ミカロが彼女を素直でないと言っていたのはこれに間違いない。
不安はない。けれどなんだろうこの違和感は。心の中がモヤモヤする。やはり記憶がないから、なのか?
「大丈夫シオン?」
「え、ええ」
移動用の船に揺られ手摺にもたれて海を眺める僕の隣にミカロがやってきた。彼女は僕がリラーシアさんの試験の説明に入ってから、まったく何も話さなくなってしまっていた。僕に反対しているのでは? とも思ったけれどそんなことはなく、僕に何かを隠しつつも僕の考えには賛成を見せた。
やっぱり彼女も素直でないときがある。きっと昔に何かあったに違いない。そうでなければ今頃僕は彼女にこんなに悩んでいないだろう。
「それにしてもビックリしちゃったよ~。リラも反対してたけど、結構乗り気に見えたし」
「あ、ミカロもそう思いました?」
「うん。何年も話してるからなんとなくわかるんだ。あ、このときはウソついてる。このときは本当の事言ってる。ってね」
よかった。思わずそう安心してしまう自分がいる。不安を抱えている。勇気に覆い隠されて見えなくなっていただけだ。ミカロのおかげで少し不安が晴れたのも事実。それにしてもよくみんな協力してくれたな。本当だったら断られてもおかしくないところだったけどなー。
「すみませんミカロ。こんなことに巻き込んでしまって」
「私は全然気にしてないよ。シオンのおかげでリラが男の子の前だとどんな風に怒ったり笑ったりするのか少し興味があったし。……でもリラはまだ壁の存在に気が付いてないみたい」
壁......考えるまでもない。きっと彼女の口調のことを言っているのだろう。確かに彼女の家で話しているときの彼女に僕は映っていなかった。親友のミカロただ1人と話している感覚だった。
――壁か。僕はミカロのおかげでそれが隠れてくれたような気がする。彼女がいなければ今頃僕はどうなっていたのだろう。
「今度教えてあげてくださいよ。僕の話は聞いてくれないでしょうけど、ミカロの話なら聞いてくれるでしょうから」
「ううん、それじゃダメなの。大切なのは自分で気づくこと。自分を本当に否定できるのは自分自身だけだってお兄ちゃんがそう言ってたから」
彼女の、ミカロのお兄さんが言っていることは正しい。自分の性格を変えられるのは自分しかいない。そしてそれを拒むのも自分。リラーシアさんが自分の欠点に気が付かなければ、何も解決しないのは彼女の僕に対しての話し方を見ればわかる。
それにしてもミカロにはお兄さんがいたのか。どんな人だろう。会ってみたいな。きっと僕より強く頼りがいのある人なんだろうな。彼女の赤く染まった頬を見るとそんな気がする。
「……たいな」
「え、なんて言いました?」
「ううん! 何でもない! 気にしないで!」
「今度紹介してくださいよ、ミカロのお兄さん」
「いいよ。でもシオンに暇な時間が来ればだけどね」
彼女はイジワルにも僕に釘を打ち付けた。――記憶を取り戻してから――そう言っている気がした。
☆☆☆
僕たちが目的地にたどり着いた時、僕はやっぱり思った。――リラーシアさんはかなり容赦のない人だと――なぜなら島には僕たちが来たことに気が付き、何百人はいるであろう敵たちが待ち構えていたのだから。
「イヤアァァー!」
彼らは雄たけびとともに島へと降り立った僕たちへと駆けだす。――変現。その言葉とともに僕たちは光輝き、正義を執行する。
「敵も多い、ここは質で行くぞ」
「了解です!」
コルジット島。一番名前が似合う場所で広さは80平方メートルほどしかない。けれど、僕たちの目に入ってきたのは大群の敵と草原。傍から考えればおかしい。本来なら敵の根城があり、そこから出てくる。
まさか野宿をしているとも思えないしな......
僕たちはフォメアの声が届く場所では彼の指示に従うようにしている。と言っても作戦は比較的簡単だ。多人数と戦うことになったとき、僕たちは“質”と“量”の2つの戦術を取ることにしている。
“質”に当たるのは僕の鉾星、ミカロの星霊星、そしてナクルスの火拳星。僕は大地の衝撃波、ミカロは星霊、ナクルスは炎で多人数を相手にしやすく、遠距離を得意としているのが特徴だ。
“量”に当たるのがミカロの星霊星、そしてフォメアの明晰星だ。ミカロは星霊を2人まで召喚でき、フォメアは攻撃した相手の特徴に変化・増殖する不思議なデータの剣がある。
ファイスがこの作戦で名前があがらないのは、彼に才能がないわけではない。その裏に隠れている重要なことを成すためには彼の存在が必要不可欠だ。
僕たちは敵を蹴散らしフォメアとファイスのための道を作る。フォメアたちは敵に追いつかれぬようデータで作られた階段を駆け上がり、島の中心へと向かった。
僕たちは残りの敵たちに囲まれ、態勢を整える。
「ナクルス、草を燃やすのは勘弁ね。こんがり焼けちゃうから」
「その程度で済めばかわいいものなのだがな」
「冗談を言ってる場合じゃないですよ。ここは先手必勝でいきますよ!」
僕が鉾をたたきつけると同時に、軍勢は後ろへと吹き飛び、スキを見せる。そこをナクルスが叩き、近づこうとする敵に対してはミカロの星霊、アクエリオスの水壁で戦意を喪失させる。
やっぱり数だけみたいだ。おかげで今回は簡単にクエストクリアだな。そう思っていた矢先、僕は斬撃に気が付き鉾でガードする。
「水使いならこっちにもいるんだよ嬢ちゃん!」
敵が水避けを施しアクエリオスの壁を無視して駆ける。やっぱり戦わずしてクエストクリア、とはいかないか。これ以上奥の手を出されるわけにはいかない。僕たちは目を合わせ互いに背を守る隊形で迎え撃つ。
僕の戦い方はいたってシンプルだ。鉾を地面に突き落として衝撃波で敵を吹き飛ばす。鉾で敵を切り裂き空中に打ち上げ地面にたたき落とす2パターン。できるだけ多くの戦い方があった方が便利なのだけれど、あまり多くてもなー。と少し面倒に思ってもいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます