第11話
僕たちは地下にある施設にやってきた。みたところ形は円形らしい。そして敷き詰められた黒色のゴム盤。ゴム盤? どうしてこんなところにあるんだ? 来客用の泥落とし用のつもりなのだろうか? なんで歓迎しているんだ。まぁ悪い気はしないけれど。
外は見えず真っ白な壁が続いて殺風景であることこの上ない。ちゃっちゃと救助者を保護して、ここから脱出してしまおう。
けれどそのとき僕たちの体がぐらついた。ミカロとの距離が遠くなり、僕たちはゴム盤に連れていかれている。走って回避しようとしたが、まったく意味がなかった。仕方なく、僕とナクルスはミカロと分かれてクエストを続行することにした。
とはいえまだ油断はできない。僕たちは入り口から右側に位置する通路にある部屋を片っ端から調べた。互いに指で合図し侵入する。
けれどそこには誰もいなかった。おそらくさっき狙撃してきた人物たちの部屋なのだろう。もっと人数がいるかと思ったけれど、これなら戦うのに人数の不利はこれから少なそうだ。とはいえ僕がこの場所内では一番不利だ。鉾を振り回そうにも壁にぶつかるし、飛びかかろうにも天井が低い。思いっきり飛んだらぶつかってしまう。もし1人だったら危なかった。ナクルスがいてくれて助かった。
僕たちが中央の場所へと戻ろうとしたその時、見慣れない白い衣を着た女性が目に入った。あれは確か、着物だったっけ。すごく動きづらそうだけれどそれは気にしないでおこう。敵を目の前にして冗談を言っている場合じゃないな。
「あら、どちらさんで? 今日は対面の方は見えないと聞いていたのですが......」
「そんな冗談に乗ると思いますか? あいにく時間もないのですぐに終わらせましょう」
「そうですね。確かにその方がゆっくりできていいかもですね。なら見せてください。あなたたちの戦いを」
僕はその挑発に乗り鉾を頭上に飛び込む。けれどその攻撃は鉄を叩いたような硬い音とともに僕に跳ね返ってきた。僕は吹き飛ばされ、ナクルスの元へと戻された。
なんだ今のは。気が付いた時には敵の周りには水のリングのようなものが2つ見える。あれが僕に攻撃をしたのか? それにしては物理的なダメージだったような気がする。とはいえ水か、少し不利だな。
僕はナクルスに手出しをやめさせ、もう一度攻撃を仕掛けた。けれどさっきと同じようにまた突き飛ばされるような感覚を受け押し戻された。
「あららー。思ってたより考えなしなんですね。でも助かります。おかげでゆっくりお茶が飲めますから」
敵は呑気にお茶を浮かせそれを口まで運んでいる。とはいえ彼女の能力を見極めない事には話が進まない。跳ね返す感覚。それが能力だとするとかなり厄介だな。属性の事もあってナクルスにはとてつもなく不利だし。
とはいえ1対2で弱気になってどうする。そんなことじゃ今後を生き抜いていける気がしない。まったく甘えすぎてどうかしているのか僕は。
「僕が正面から攻撃を仕掛けます。ナクルスは横からお願いしますね」
「了解だ。正面を割ければよいと言うことだな」
彼は意外に僕の考えを見るように聞き取り僕の後ろに付いた。僕の攻撃の構えとともに女性は手をこちらにかざし、反撃の態勢を整える。けれど僕は態勢を後ろに傾け空振りをする。
その動揺と困惑の渦中にナクルスの炎が彼女を包んだ。
「
彼女はナクルスの存在に気がつくと水のリングの片方でガードし、リングは水蒸気となって姿を消した。僕はそのスキを突こうと攻撃を仕掛けたが、また弾かれてしまった。
あれ? さっきよりも痛さが少ない。ひょっとすると......いやもしかしたら、あの場合も考えられるな。
僕とナクルスに囲まれた女性は警戒を強めリングの数を3つに増やし、常に僕らに手を向けていた。けれどそれでは僕らの思う通りに動くというものでもある。僕たちは互いにタイミングを合わせ敵に接近する。
さっきのようなフェイントが何度も効く相手じゃない。僕は彼女のリングにギリギリ触れない距離で鉾を素振りするように何度も回転した。
けれど飛び上がったタイミングで僕の目の前に2つのリングを引き寄せ攻撃しようとする。
避けたいところだけど仕方ない。僕は再度弾き飛ばされスキのできた彼女にナクルスが一撃を込める。
「
その攻撃とともに彼女は壁に吹き飛ばされ、僕も攻撃に参加した。けれど、彼女は自らの周囲をリングで覆い、僕は攻撃のタイミングを逃がした。
「たとえどのような攻撃が来ようとも、私の能力が敗れることはない。リングがあり続ける限り、トドメはさせませんね」
「……これならどうですかね?」
僕は鉾の先端から光を発し、女性に突きつけた。彼女は両目を閉じて僕たちから目を背けた。やっぱり物理的なものを弾くだけで、こういったものは弾くことができないわけか。
鉾で横からリングを吹き飛ばし、素振りをさせてくれた分を含めて彼女に攻撃を仕掛ける。
「
彼女は壁の中に姿を消し、僕たちはファイスたちの元へと移動する。それにしても彼らからの連絡が遅い。戦闘中なのだろうけれど、連絡がまだ1度もない。それだけ強い敵がこの奥にいるというわけか。
僕は高揚感を感じつつも、彼らの身を案じていた。まさかとは思うけれど、無理は勘弁してくれよ。ファイス。
★★★
「こんにちは~、っていないか。さっき何十人も倒したし、当然よね」
シオンたちと分かれさせられちゃった私は1人でリラと協力関係にある女の子を探すことにした。けど簡単には見つからない。もしかしてリラの考えが当たっててもう敵にスパイのことがバレちゃったのかな......
いやいやそんなことないよね! きっと大丈夫だよ! うんうん! とりあえず探すの再開!
私はいくつも部屋を覗いたけれど、誰とも遭遇する気配はなかった。妙に静かな気がする。ちょっとだけ不安。シオン、大丈夫かな。
そんなのんきな考えを遮るように、私の目の前を何かが勢いよく通り過ぎた。矢。飛ばした先を見つめると、そこには角のアクセサリーの目立つボロボロになった服の女性が私のことをにらんでいた。
やっとチーム以外の人に会えたみたいだけど、リラの言う協力者じゃなさそうかな。
けど私に戦おうなんて考えは起きなかった。さっきの見た目に赤くにじんだ包帯の左手。私は彼女とは違い手を差し出して首を傾ける。
「大丈夫? 立てそう?」
矢が勢いよく私の頬を擦った。ちょっと痛い。思いっきりチョップしてやりたいところだったけど、彼女は私から距離を取って背中の矢を取り出し臨戦態勢を整えていた。
私は血を指で拭るとアクエリオスを呼び出す。ちょっと時間が厳しいけど、ここは彼女を見つけるためにもやるしかないよね。
私の星霊召喚を見るなり彼女は笑みを浮かべた。私はその不気味さに思わず1歩下がった。
「ずいぶんなめられたものね。そんなものでだまされるわけないでしょ。それにしてもまさかまだ素性の理解できていなかった人物が召喚系統の星でよかったわ。おかげで早く済みそうだわ」
彼女はとびきりの笑顔を見せた。意味は全然違う。普通にその顔を友達として見せてくれればすっごくカワイイのに。ううん、今は友達じゃない。戦いに集中しないと。私は頬を手で叩いて考えを改める。よし、これで大丈夫。
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