錯綜する思い
001 追憶 ー 鈴の音 ー
三年前、私はこの村に来た。
地図を見るとその村の名前はローグ、というらしい。
森に囲まれたその村はまるで外界から切り離されたかのようにあって、ここなら私は何もかも忘れることが出来る気がした。
どの建物も美しい木目が目を引く。何の木で出来ているんだろうか、とか思いつつ大通りらしい道を歩いていると、目的の建物が見えてきた。
村長、ギドさんだっけ、その人が言うには何年も前から空き家になっているらしく安値で使わせてもらう事ができた。
決して大きくはない、その小さな建物。
可愛らしい外見で、私は一目で気に入り、当初から考えていた雑貨店をここで開くことにした。
商品はまだこの白いカバンに入っている分しかないけど、薬の調合とかなら苦手ではないし…… 何より静かに暮らしたかった。
名前はアマイロ雑貨店。
ドアノブには“OPEN”と書いたプレートをかけた。
ただ、客は一向に来なかった。
余所から来た私への警戒や、こんな子供の店なんて…… というものがあったのかもしれない。
カウンターに頬杖をつき小さな窓を眺める。
窓から伸びる陽光が爽やかな晴れの日を告げ。
窓から見える灰色の雲がどんよりとした曇りの日を告げ。
窓を振るわせる程の風が吹きすさぶ強風の日を告げ。
窓を激しく叩く雫が憂鬱な雨の日を告げ。
これでもいいと思った。
誰にも関わることなく私は……
「あなた誰?」
突然に鈴はなった。
「私、ミーシェルっていうの」
私と同い年ぐらいの女の子。
「あなた、名前はなんて言うの? 友達になろうよ」
笑顔で手を差し伸べてくる。
私はその手を取ることを少しためらって、だけどミーシェルは私の手を引き寄せ、
その両手で包みこんだ。
その手はとても温かかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます