名を刻む少年

001 名を刻む少年

 時が止まった。

 手を伸ばす、しかし俺の手には何も掴めない。


 

 無機質な足音が一つだけ響く長い廊下。

 窓からそそぐ陽の光をいくつも横切って、それでも足音は止まらない。


 やがて足音はある部屋の手前で止まる。


 両脇に控える侍女によって重々しいドアは道を開き、眼前に広がるのは奥に長い大広間。

 美しい装飾が施された壁といくつもの調度品、床に敷かれた真っ赤な絨毯、そして白く輝く白銀、ミスリル銀の鎧をまとった屈強な騎士達。

 真っ赤な絨毯の両脇に並ぶ騎士達のいずれの者も皆、胸には太陽を模した紋章が刻まれている。

 もちろん自分にも、一番奥の壇上に立つ男にも。


 誘われるように真っ赤な絨毯を通り、奥の壇上へ歩を進める。

 それを追うように騎士達の視線も奥の壇上へと向けられる。

 

 壇上に立つ男が声高らかに宣言する。


「今日この日、アカディア王国騎士団の名をもって命ずる」


 今日この日、俺の手は。


「第三騎士団団長の名をその身に刻め、アルン・フェイド」


 何かを掴めそうな気がした。

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