第2話 ゲーム世界
「ここは……」
俺のいる場所は何も見えない真っ暗闇で手を伸ばせば壁に当たり立ち上がろうとすれば背中がぶつかるような狭い空間だった。
ど、どういうことだ? あの女神との流れ的にゲームの世界に飛ばされて魔王を討伐するんじゃなかったのか。これじゃあ、罰を受けて牢獄に入れられてるのと変わらない。
こういう場合はとりあえず叫んでみた方がいいよな。もしかしたら、脱出の糸口がつかめるかもしれないし。
俺は意を決して真っ暗闇の中で喉を痛めるかもしれないくらいの大声で叫ぶ。しかし、ばかでかい声は無意味なくらいに反響するだけで耳を塞いで聞こえなくなるのを待つことになった。
「くっそ、どうしたらいいんだ」
何をしてもびくともしない六方向の壁に四苦八苦していると頭の中に直接最近聞いたばかりの忘れたくても忘れられない声が聞こえてきた。
『悪いな。水瀬、鉄のブロックに転送しちまった』
「…………」
殴りたい、この女神を今すぐ殴りたい。どうしてこんな適当な奴が女神なんていう高等な役職につけるんだよ。神様は風邪でもひいてたのか。
『黙んなくてもいいだろ。女神でもミスはするんだよ』
百歩譲って女神がミスをするのは許そう。だが、ミスをするにしても町から離れたところとか人の家とかそれくらいのレベルだろ普通。何だよ鉄のブロックってもう馬鹿としか言いようがないよ。
俺の初めての転送がこんなことになるとは誰が予想していたのだろう。恐らく、世界中探してもいないだろうな。
馬鹿な女神のせいで鉄のブロックの中というなんとも奇妙な場所に飛ばされた俺だが鉄だけに鉄の心で文句は言わないようにした。
「分かったんで、そろそろここから出してほしんですが」
『分かってる』
初めてあったときから思ってたけどこの女神口調悪すぎやしないだろうか。俺のイメージだともっとおしとやかいのを想像するけどこれは真逆すぎる。
口では出さず心の中で女神に言いたいことを溢れんばかりに唱えていると“あれっ? あれっ?”と不安を煽るような言葉が連続で頭に響く。
「おい、女神。もしかして出来ないとか言わないよな」
『そ、そんなわけないだろ。私は女神だ。絶対にできる』
今の言葉、フラグじゃね。このパターンだと出来ないで終わるよね、そうだよね。絶望ルート一直線に進んでるようにしか感じないよ。
時間がかかればかかるほど俺の心が不安に侵食され初めてきた。
侵食される心のせいで正常な判断能力を失い開きもしない壁をひたすら拳で殴ったり頭突きをしたりと体を痛めつけて現実から逃れる道を知らず知らずの内に進んでいた。
一方で女神も責任を感じているのか何度も何度も呪文を唱えては失敗に終わり、また唱えては失敗するのを繰り返していた。
『どうなってんだよ』
これもしかしたらこのまま俺の人生終わっちゃうのか。せっかくゲームの世界にこれたと思ったらブロックの中で手も頭も傷だらけで女神も出すことができないそんなのあんまりじゃないか。
確かに引きこもったりして両親に迷惑をかけた時期もあったけどこんな終わり方は酷すぎる。
『これか。水瀬ようやくできる。悪かったな』
「で、出られるのですか」
『おう、ちょっと待ってろよ』
やっと、やっと出られるのか。危なかった。後少しでも遅くなってたら自分で息の根を止めてるところだった。
これは、女神に感謝しな……って元はと言えばこいつのせいじゃないか。くそっ、今になって怒りがぶり返してきたな。
女神に対しての怒りが出てきたところで真っ暗闇を切り裂く光が俺の体を包み別の場所へと飛ばされる。
飛ばされた場所は、人目につかないよう考慮されたのか町の外れのところだった。一応、周囲を見渡すが人の気配は感じられなかったのでひとまず安心する。
「スゲーな、本当に来られるとは」
あんなことがあったからまた間違ってあの世に飛ばしましたとか言われても納得しちゃうところだったからな。
『ほとんど同じ世界だから教える必要はないと思うけど死んだらやり直しが出来ないってことだけ伝えとく』
「女神の力でやり直しとかできないのか」
『めんどいからやだ』
もう嫌だこの女神。やることは雑だしめんどくさがりとか俺以下じゃないか。これで女神なら俺は神様だよ。
女神の愚痴を考えてもなにも始まらないと気づいてゲームの最初にしなければいけない冒険者登録をするために酒場へと向かうことにする。
「カードがねーとマップも見れないから探すの大変だな」
流石に情報なしで探すのは無謀すぎるし住民見つけ次第どこにあるか聞くか。
酒場を探す第一段階として人を探すことになったのだが予想以上に見当たらず気づいたときには町の中心地へとたどり着いていた。
「自力でこれるもんだとは」
中心地は、外れと違って人が多くいてとても賑わっていた。
町にある建物も崩れたりしている様子がないところを見るとここには魔王軍の進行は進んでいないようだ。
まあ、最初のこの町まで魔王軍が来てたら冒険者にすらなってない俺なんて即死亡だしな。そんなことより、酒場に入って冒険者登録をしないと。
中心地には噴水などがありとてもきれいな風景で酒場はやや大きめの建物で入り口にドアがないので普通に入る。
酒場の中は、食堂と受付の2つに分かれていた。
食堂の方では30人程度が思い思いに盛り上がりながら楽しく飲んでいて受付では掲示板に張られたクエストとにらめっこするやつや武器を片手に何かを待ちわびてる冒険者がいた。
新人でも狩ろうとする奴だな。ゲームの中では絶対見れないけどこういうのが見れるのは現実のいいところだよな。
「すいません」
受け付けにいくと誰もいなかったので奥の方に呼びかけてみる。すると一人の女性が一枚の大きなガラスで区切られた受付の席に座り答えてくれた。
「どうなさいました」
「冒険者登録をしたいんだけど」
「新規の方ですね。では、このエルオンに手をかざしてください」
「分かりました」
地球儀型のエルオンに手をかざすと少しの時間を置いてから下の方にある穴から一枚のカードが出てきた。
「これで、登録は完了です。聞きたいことなどはありますか?」
どうすっかな。大体のことはしってるし聞く必要はないんだけどそれはそれで変な注目を集めるかもしれないから聞いておくか。
受付の人の話を聞き終えて食堂の方へと向かう。
その中で空いている席に腰かけて貰ったばかりのカードを机の上に置く。
さあ、俺のステータスはどうなってるかな。
俺が心の中で“ステータス”と念じるとカードが光を放ち光の文字が浮かび上がる。次第のその文字は意味をなすものと変わっていきステータスを表示した。
“ミナセカイト LV1
職業 駆け出し剣士
HP 50/50
MP 8/8
攻撃力 35(+0)
防御力 20(+0)
素早さ 26(+0)
剣術 RANK1
スキル なし
装備 頭 なし
胴 なし
腕 なし
足 なし
武器 なし
持ち物 なし
所持金 0エルギ ”
レベル一ならこんなもんか。やっぱり思うのは最初から職業を選択できる仕様のゲームだったらよかったんだけど。たらればをいっても意味はないもんな。
ステータスを、確認し終えて立ち上がると受付のある方から二人組の冒険者がこっちに向かって歩いてきた。
ほほう。俺を新人と見るや否や早速近づいてきましたか。でもね、俺の逃げ足をなめてもらっては困る。こう見えても逃げる場合だけ陸上部に匹敵する力を持っているんだからな。
「よう、兄ちゃん。俺達のパーティーに入──」
「結構です」
返答をして逃げるのはせめてもの礼儀だと心得ているからだ。去り際には“ちっ”と舌打ちが聞こえたので逃げたのは正解だったと思います。
「ふぅ~、追ってくる様子はないし。セーフだな」
酒場からある程度の距離をとったのを目視で確認してから立ち止まると不意に声をかけられた。
「あの」
声をかけてきたのはさっき会ったばかりの受付の女性でよほど急いでいたのか前屈みになり呼吸を整える。そのせいで胸元が俺の視線を釘付けにさせる。
まさか生で見ることができるとは。ゲーム世界さまさまだな。おっと、顔をあげる前に視線そらさないとな。
「それで、どうしたんですか?」
「カードを忘れていったので」
カード……。そっかあいつらに追いかけられてそれどころじゃなかったのか。
「わざわざ届けてくれなくても良かったのに」
「そうなんですけど、やはり最初のカードは大切なものと思いまして」
何て優しい人なんだ。こういう人こそが女神をやるべきだろ普通。何であんな適当な奴が女神をやれる──。
「いって」
「どうなさいました?」
「な、何でもないです。ありがとうございました」
“では”と言って酒場に戻っていく受付の女性を見送ってから足元を見ると赤色が角についている少し大きめの石が転がっていた。
いったい誰が意思を投げてきたんだ? 後ろを見ても誰もいないし、ってか女神の話をしたら飛んできたよな。どう考えてもタイミングが良すぎる。
『適当で悪かったな』
(犯人はお前か)
『私を罵倒したからな』
そんな理由だけで住人を傷つけて良いものなのだろうか。俺としては駄目だと思うんだが。
『今後は言うなよ。ずっと見てれないんだから』
頭から今もなお流れ続ける血を隠しながら近くにあった路地に気づかれないように入る。頭を覆っていた手が赤く染まっていたが想像を越えるものではなかったので何とか対処できないか暫しの間、考えることにする。
怪我のせいかいっこうに考えは思い浮かばないので応急処置として自分の服を破いて頭に巻こうと服に血をかけたところを引っ張られて止められた。
暗い路地で袖を引っ張られたので俺の恐怖レーダーが触れきれそうになったが現状を考えると逃げるわけには行かないので目をつぶって見ないようにした。
「幽霊じゃない」
普通に会話をしようとして来たので目を開けるとそこには鋭い目が特徴的な女の子が立っていた。
どこの子なんだろ。こんなに小さいこと暗くて狭い路地に一人で居させるなんて親の顔が見てみたいもんだ。
「ちょっとしゃがんで」
「あ、ああ」
女の子に促されるままにしゃがみこむと手に持っていた包帯を俺の頭に巻き始めた。
その手つきは慣れたもので反応を示す前に終わった。
「怪我してたから」
「上手なんだな」
「私には、これしかないから」
そういった女の子の声はどこか寂しく感じる。
子供とは思えない雰囲気に巻かれた包帯に意識を向けた一瞬の内に女の子の姿はどこにもなかった。
子供の足でそんなに遠くまで行けるはずないと路地の奥へと進んでも人影はない。元の場所に戻って路地の外を見てもそれらしい子供は見当たらなかった。
あんなに小さい子が手当てをするしか自分に能力がないと思うなんてどう考えてもあり得ない。
何か、理由があるのかもしれないし絶対見つけて解決してやる。それに、礼も言えてないし。
やりたいことは見つけたがすぐには出来ないと思うのでまずは、当面の目的を達成するために探さなければならないものがある。
「宿……けど、金ないと無理だよな~」
逃げることや救うことに考えの中心が向かっていて一番しなければならないことが後回しになっていたことに気づいた。
何故、そうしなければいけないのかは季節が冬であるから。こんな寒さの中で野宿をすれば一日と持たず安らかな眠りにつくことができるだろう。永眠というなの終わりですが。
ちなみにこの世界には地球と同じで四季があるので馴染みやすい環境ではある。
とまあ、そんなことを考えていて現実は突きつけられるもので。どうしようかと思案しているとガッチリした体型の装備を見にまとった冒険者のような風貌をした男が話しかけてくる。
「よう、さっきは大変だったな」
「逃げるのは自信あったんで問題ないです」
「ハッハッハッハッ。お前面白いな。俺の名前はガレット・コイル。ガレットでいい。よろしくな」
「俺はミナセカイト。カイトと呼んでくれ」
「じゃあ、カイト。離れに留まらせてやるよ」
「??」
一瞬ガレットの言っていることが理解できなかったので一度頭のなかで整理をする。
宿に留まらせてもらえるだと。そんな夢みたいな話があっていいのだろうか。俺は特にガレットに対して恩を返されるようなことをした覚えはないぞ。来たばっかだし。企みでも隠し持っているパターンじゃないだろうな。
恐る恐る下げた顔をあげてガレットの顔を見るがその顔は子供のような屈託のない笑顔で気持ち悪さは感じるが何かを企んでるようには見えない。
けど、念には念をいれとかないともしもの時対応できなくなるからな。聞くぐらいはするとしますか。
「どうして俺なんかを?」
「なんとなく活躍しそうだと思ってよ。だから、恩を売っておいて損わねーと思うんだわ」
結構適当な考えだがこの人が俺に期待をしているのは分かったしそれをむげに断るなんて失礼にあたっちまうからな甘えとこう。
「金は持ってないぞ」
「そんなもんいつでもいいよ」
「本当に助かる」
「良いってことよ」
ガレットの話では町の外れになってしまうが離れ自体は比較的生活のしやすいものになっているんだとか。これは、早くいかねば。
大急ぎでガレットに場所を教えて貰ったところへカードの地図を便りに向かうと外見は年期を感じるものだったが中に入ってみると生活感を感じさせる雰囲気を醸し出していた。
普段から使ってる場所じゃないのか? それを見ず知らずの俺なんかに使わせてくれるなんてガレットも受付の人並みに優しいんだな。
顔はいかついけど。
食べ物とかもあるものを使っていいとはいってたけど。
冷蔵庫を開けるとそれなりの食料が入っていて空腹には困らないレベルだった。
早速、作って食べたいところだけど今日は転送の失敗やら変な冒険者に目をつけられて逃げるわで無駄な体力を使ったし明日のクエストのために早く寝ますかね。
離れにいくつかあるドアを開けて確認していくと寝室があったので風呂で体を洗ってから布団にもぐると少し違和感を覚えたが風呂に入ったせいで強くなった眠気はそれを気にする余裕もないくらいに俺をあっという間に眠りにつかせた。
1001回目は異世界で~最弱プレイヤーが魔王を倒す~ @09484
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