1001回目は異世界で~最弱プレイヤーが魔王を倒す~
@09484
第1話 記念すべき1000敗目
多くの住宅が立ち並ぶ一角に比較的大きめの3LDKの一軒家に俺を含めた家族3人で暮らしている。
ただ、親父が海外主張で家を空けていてそれに親父にゾッコンの母さんも付き添っていったので今は独り暮らしだ。
しかし、独り暮らしは俺にとって利点しか感じられない。現に平常時なら両親のどちらかに怒鳴られるのだが昼に起きても誰にも何も言われない。その他にも利点はあるがとりあえずはこれだけ。
ベットから体をおこし部屋のドアを開け右に曲がると1階へ降りるための階段が待っている。そこを、眠たさ全開の体にむちをうって転がり落ちることなく無事到着した。
「今日も怪我なしっと」
最近はこんな生活ばかり送っているせいか体のチェックをしないと不安でしょうがないんだよな。
体の状態を確かめてからリビングに繋がるドアを開けて地続きになっているキッチンへ向かう。キッチンに入ってすべきことは眠気覚ましのために飲むコーヒーを作るお湯を沸かすことだ。
俺は、カウンターの上にある電気ケトルに水道の水を注ぎコンセントをさしてスイッチを押す。すると、フツフツフツと音をたてて動き始めた。
それを見届けてからリビングへ行こうとしたところでパンッと沸騰したのを告げる音が聞こえた。
電気ケトル君、君が優秀なのは重々承知なんだけどねもう少し遅くわいてもいいんだよ。時間はたっぷりあるんだからさ。
意味のないことを心で呟きながらコップにインスタントのコーヒーを入れて沸きたてのお湯を注いで眠気覚ましのコーヒーの完成である。
「いただきますっと」
沸騰したお湯なので舌を火傷しないように冷ましながらちびちびと飲み干す。
「ふぅ~、目も覚めたことだしちょうしょ……じゃなくて昼飯か」
誰もいない部屋でボケるのは寂しさをまぎらわす目的で日常になりつつある。だるくなるけど両親には早く帰ってきて欲しいものだ。
そんなこんなで俺がこんなにも自由な時間を満喫できているのには両親がいないことの他に夏休みという長期休暇が重なっているからだ。
夏休みを含む季節ごとの休みは、俺にとって生きる糧みたいなものだから無くなったら自殺すると断言できるな。
「なんか残ってたかな」
昼飯を作ろうと冷蔵庫を開けるとほとんど食品は残っていなかったがわずかでも残っていたものを取り出す。
取り出したものを軽く炒めて昼飯を完成させる。
俺は、ゲームオタクで引きこもりごみであるが家事に関しては一般の高校生より上手にできる自信がある。まあ、引きこもってる時点であまり自慢できることじゃないけどな。
「残りももうないし明日ぐらいでも買い出しにいくか」
明日の予定を決めて作った昼飯をキッチンで済ませ、リビングの窓際に置かれているテレビにゲーム機を接続して電源を入れる。
これから始めるゲームはMMORPGの「エルギネイト・オンライン」で内容としては一般的に多く見られる冒険者となり魔王を倒すというシンプルなものだ。
このゲームは2年前に販売され老若男女に爆発的なヒットを産み出していた。その要因としては、ゲームの難易度が低く設定されていて子供や老人が楽しめるのと映画と見間違うほど完成度の高いストーリーなどだろう。
だが、普通2年前のものは新しいのが発売されたりして時代遅れとなり中古で見るのが当たり前となってくる。
当然、「エルギネイト・オンライン」も例外なく中古として出回っているのだが俺がやっている理由はただ1つ。
「何でクリアできないんだ。あんなに簡単簡単って言われてるのにおかしいだろ」
本当にいい加減にしてほしいものだ。俺は昨日までに998回も魔王に挑んで敗けを喫している。
「ここまで勝てないのは故障しかないだろ」
俺は、愚痴を溢しながらも999回目の魔王戦に挑む。
「だぁー、勝てん。使いたくはなかったがそれしか道はないか」
1度リビングから出て2階の自分の部屋に行き机の上においてあるパソコンを持ってリビングに戻る。
これは最終手段だがここまで負けたんだし使ってもいいよな。
俺は、パソコンの電源をつけると「エルギネイト・オンライン」と打ち込み攻略サイトを探す。
このゲームに関する情報は想像以上あって適したのを探すのに10数分もかかってしまった。
「お、このサイトは文字を打ち込めるみたいだな。試しに打ってみるか」
攻略サイトに「1000敗目を防ぐためにヘルプを求む」と打ち込むと見ている人が多かったのか数十秒で30件程度の意見が書かれた。
『どうやったらそんなに敗けれるんだ』
『マジうける~ww』
『すごい(笑)』
『あなたにゲームのセンスはないのでは?』
「…………」
う~ん。まさかここまで叩かれることになるとは思っても見なかったな。しかも、ほとんど罵倒だけでまともにアドバイスしてくれてる人は誰もいなじゃないか。みんな酷すぎる。
心を痛めつける言葉のオンパレードに耐えつつそのサイトを閉じて見つけていた攻略サイトの画面にする。
「こ、これで、これでやっと勝てるんだ」
俺は、攻略サイトに書かれている通りに進めていく。
魔王を討伐できる後一歩のところまでいくと突然魔王が攻略サイトに書かれていない行動をしてきた。
魔王の放たれる一撃から逃れるためにキャラを操作して魔王から距離をとるがエリア全体を襲うものだったせいで逃げたのも虚しく直撃した。
その後は999回見てきたゲームオーバーの表示を見つめるはめになった。
「せ……1000敗……目……」
とうとう迎えてしまった。けどまあ、今思えば迎えるべくして迎えたみたいに思えるけど。
十数年生きてきた俺の中で最も落ち込むべき結果を出してしまい無気力に襲われた。
虚ろな目になって手からこぼれていたコントローラーを床から持ち上げると選択をコンテニューに合わせてスイッチを押す。
“そろそろですかね”と声がした後にテレビが強い光を放ってきたので思わずコントローラーを落として目を塞ぐ。
光が収まると少しの間、目がチカチカしていたのでそれが収まってからテレビの方へ視線を向けるとそこには、聖女のような格好をした女性がホログラムとして目の前に浮かび上がっていた。
「な、なにが」
「何がって、あんたが負けすぎたからでしょうが」
「そんなこと言われたって勝てないものは勝てないんだよ」
「実力がないだけでしょ」
「この
んっ? 所でこいつはなんなんだ。なんとなくノリで会話をしてるけどいきなりテレビからホログラムが出てくるなんて普通じゃないし、というかそれ以前にしゃべり方ムカつくな。
「あたしは女神なんだからもっと敬意を払いなさいよ」
そうか幻覚が見えてるのか。ゲームに敗けたことのショックで放心状態になっているのが原因だったとは。
理解のできない現状から現実逃避をするために眠くもない体を横にしてそっと目を閉じ呼吸を整える。
「おい、寝てんじゃねーよ」
「うるさい。こっちはなにがなんだかんだ分かんないんだよ」
「そりゃそうだわね。けどこっちも時間内のよ。用件は手短にさせてもらう」
自称女神が言うには俺があまりにも魔王に敗けすぎたせいでゲームの中のキャラが苦しんでしまっているという。そこで、責任を取る形で俺を異世界もといゲームの世界へ飛ばして魔王を倒させるんだとか。
「ちょっと待て、てことはゲームと同じことが体験できるのか」
「全く同じではないがな」
「それでも全然いい。むしろ早く行かさせてくれ」
態度の一変した俺を見て女神はものすごく引いた顔をしていたが何事か呪文を唱えると俺の体が光に包まれた。
「頑張ってくれ」
その一言がリビングに残された。
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