終章「トランス・パニック・スクール!!」

その18

「ン待ぁてぇーーっ!!」

「待てと言われて待つほどお人好しじゃないぜ!」


 一体どれくらいこの逃走劇は続いてるんだっけか。

 オレはずっと巧人に引っ張られながら瞬間移動で才音から逃げている。才音は一昔前に見たスケボーにハンドルがくっついたような機械に乗りながら追いかけている。ただそのスケボーもどきは、車輪がついておらずジェット噴射で飛んでいるように見える。ってか、よくそれで飛べるな。


「ところでいつまで逃げるんだ?」

「才音があきらめるまで!」


 さっき巧人に才音と『勝負』すればこういう事しなくて済むんじゃないかと提案したんだが、こっちの方が楽しいからと断ってきた。その時は言っている意味がわからなかったが、今考えたらずっとオレと手を繋いでいる状態だから、それが嬉しいのかもしれない。

 オレ自身は……まあ、手を離したら才音に捕まってしまうし、前よりは悪い気分じゃないから許している。

 だけどいつまでもこうしているわけにはいかないと思うんだが――


「史勇」

「おわあっ!?」


 なんて考えていた所に、突然声をかけられて驚いた。瞬間移動しているオレ達に併走するように、朔夜が横に現れたからだ。

 いや、何で瞬間移動しているオレ達に追いつけてるんだ? 思った以上に身体能力高いな。さすがアンドロイド。


「朔夜、ちょうどよかった! 才音を足止めしてくれないか? 俺達はその隙に逃げる!」

「構わない。ただし条件がある」


 初めてじゃないか、朔夜がそんな事を言うなんて。一体何を言う――


「二十四時間、史勇のポニーテールを触り続けていたい」

「本当に何を言ってるんだ朔夜!?」


 ポニーテール狂いが悪化してるぞ!? 一体何があった!?


「面白い事を言うな、朔夜! だが悪いな、シュー子のポニーテールを触っていたければ、まずオレと『勝負』をして勝たないとな!」

「何でお前が権利を決められる立場にあるんだよ!?」

「ン貴様らぁっ! 一体何を談笑しているかぁっ!?」


 これが談笑しているように見えるのかよ!


「ってか、朔夜も何で急にそんな事を!?」

「理子に好きにしていいと言われた。だからポニーテールを二十四時間ずっと触っていたいと思って、行動に移している」

「それがオマエのやりたい事かよ! もっと他に色々あるだろ!」


 本当に、どうしてこんな風になってしまったんだ。やっぱり巧人のせいなのか? 巧人が誤って朔夜を怪我させたから、こうなってしまったのか?


「だけど巧人と『勝負』しなければならないのなら、それもいとわない」

「『勝負』するなら、この審判委員会が――」

「また唐突に出てきて勝手に話を進めようとしないでください!」


 桐野先輩までついてきやがった! 事態が一向に収まる気がしない!


「シュー子、楽しいな!」


 オレは疲れてきたぞ。巧人も本当にタフだよな、こんな状況なのに笑っているなんて。

 とはいえこんな巧人がオレに構ってきてるからこそ、こういう騒々しい周囲だからこそ、落ち込む暇もなく学園生活を過ごせていると想う事にしたんだ。実際、受け入れようとしたら案外悪くないように思えてきたしな。


 しかし今はコイツらにどうしても言っておきたい。


「オマエら……いい加減にしろーーー!!」


 もちろん、こんな叫びなんて無意味だとはわかっていた。

 オレの学園生活は、最後まで騒々しいんだろうな。

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トランス・パニック・スクール!! 紅羽根 @BraveFive

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