第3話1周目-2 遠征
真夏の炎天下、外出は正午までか夕方からか、に限られる。
「気をつけて帰るんだよーっ」
太陽が頂点からわずかに傾いた頃、子ども達は自転車に飛び乗り、あるいは歩いてそれぞれの帰路につく。帰ったらちょうど昼食の時分、といったところ。
「さてさて、何事もなく無事終了っと……
タオルで顔を拭きながら、
「そういえばさ、来週は
「ゴメン
「……そうなんだ。でもお盆だし仕方ないね」
申し訳なさそうに言う
「
「そう、来週は夏の全国大会だよっ」
春夏秋冬を通して行われているミニ四駆の公式大会のうち、夏に行われる全国大会がFDBサマースペシャル・タミヤミニ四駆全日本選手権ジャパンカップ。ようやく
「
いささか元気なさげな
「そのことは仕方ないわ……それよりせっかくだし、
「おっ、いいねっ。 じゃあ毎度だけどお邪魔しちゃおうかしらねっ」
「
「大丈夫、
「そう? なら先に行ってるよ」
「りょーかいっ」
あっという間に会話を終えると、
「って返事してないのに行くことになってるし」
同じく、車のキーを取りに店の入り口へ向かおうとしていた
「私の助手席と
「いや別にそういうわけでは」
「なら決まりっ。
自他共に認めるところだが、
「手狭だけど我慢ねっ、
とっくに生産停止になっている型の軽バンを操りながら、
「仕入れとかで使ってる車ですかこれ」
「そうだよっ、古いけど、サスペンションが今売ってる軽バンにはないぐらい頑丈でねっ、排ガス規制で車検に引っかかるまでは使いたいねっ……ほら、あの左手のが
「……」
あの家が
「さ、ついたよっ」
大型車2台分以上の幅はある、格子状の門扉が勝手に開くと、
行けば分かるから、と言った
「お帰りなさいませ、
門扉(もんぴ)の方から、家政婦らしき小綺麗な格好の中年の女性がひとり
「ただいま。汗かいたからシャワー浴びるわ。ランチと洗濯は全員分お願い」
「かしこまりました」
ヘルメットを脱ぎ家政婦に渡しながら、手短に会話する『令嬢・
「シャワー室は3人分ありますので、汗を流していってくださいな。
言い終わるかどうかのうちに、家の方からさらに数人の家政婦らしき人が来て、
「
「は、はあ……ありがとうございます……」
一通り説明すると、家政婦はいずこかへと下がっていく。シャワー室の前には
「どこの王国ホテルだよ……」
驚き半分、呆れ半分で独り言を呟くと、とりあえず服を脱いで
「こう暑い日はソーメンに限るよねっ」
シャワーを浴びて着替えた後、通された部屋にあるゴージャスな円卓に並んでいたのは、夏の庶民的食べ物の代表格、きっちり3人分の素麺だった。
豪勢なものを勝手に期待してた
「でねっ、来週の土日のことなんだけどねっ」
鉄人級の
「私は行けないもんだから、全日本選手権は
「できなくはないでしょうが……僕の車じゃ2人は手狭だし、そもそも泊まるところはどうするんです?」
「それについては心配には及びません」
後ろから声をかけられ、思わず
「車は当家所有のハイブリッドバンをご用意しますし、向こうでのお泊まりは現地の最高級ホテルを2部屋確保しております。
ハイブリッドバンには、ナビゲーションも自動料金支払装置も装備してありますので、ご自由にお使いください。ホテルも既に支払いは済ませておりますので」
物静かに、しかし自信を持って答えると、初老の男性はアイスコーヒーのグラスを3人の前に手際よく置いてゆく。
「至れり尽くせりですね……でも、そもそも
出されたアイスコーヒーを、
「……別に私は構いませんよ。私は車の運転免許がありませんし。
あと、土曜はコンクールデレガンスの全国大会と同時に、本大会の最終予選をやる日ですから、
最後はやや歯切れが悪そうに言うと、ちらりと
「……あ、ほら
「……?」
呼び出された画像ファイルには、王冠と紅(くれない)マントを装備し、少し照れくさそうにする
「何の画像?」
「大学4年のとき、
「ちょっ、ちょっとぉ!? 何恥ずかしいもの見せてるのかな
臆面もなく言う
「こ、これはダメです、もう何年も前の画像なので……見なかったことにしといて下さい」
消え入りそうな声で言いながら、
「あははっ、ごめんごめんっ。
こんな具合で
あ、本当に困ったら、
……助け求めないといかんぐらい、ナンパ多いのか……?
などと
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