29 奇矯

 伯父は父の兄だが大学在学中から株で儲けて人並み以上の生活を送っている。

 さらにその如才なさのためか別の理由かは知らないが母方の親戚にとても信頼されて系列会社の役員をいくつも兼任していたので贅沢しようと思えばいくらでも贅沢できたはずだ。

 伯父はお洒落だったが乗る機会のないスポーツカーを何台も所有したり怪しげな骨董品に魅入られたりはしない人物だ。

 その代わり投資の機会があれば怪しげではない骨董品を買ったしマンションやビル等も購入する。

 わたしが東京に出てきて住んだ部屋はそのマンションの一室でいつかはそうなるだろうという期待の許にあの夜わたしから伯父を誘ったが伯父は申し訳なさそうな顔をしてわたしの誘いを断るのだ。

 あのときには良くわからなかったがあのときのわたしは伯父にとって既にわたしの抜け殻でしかなかったのだと後に気づかされてわたしが嗚咽。

 わたしは伯父を愛していたし当時の伯父もわたしを愛していたはずだがその伯父のわたしへの愛は伯父の母への愛の代用でしかなくさらにわたしにはもうその役がこなせなくなっていたのだ。

 その事実をわたしに気づかせてくれたのは同じ大学校内でばったり出会った理Iに通うGだ。

 Gはわたしとの出会いを懐かしがったが今では当然精通している自分の性器でわたしを貫通しようとはしない。

 そのことについてGがわたしに説明する。  

 おそらくきみを背負うとぼくは壊されてしまうだろう。

 思い出の中のきみは美しいしあのときのことには本当に感謝しているがでも今のきみと関係を持つことはぼくにはできない。

 それは無理なことなんだ。

 ぼくは自分の命が惜しいしきみはぼくに惚れているわけではないから今なら将来的にきみ自身も傷つけずに仲の良い友だちのままでいられるだろう。

 そう言うGの言葉に今ひとつ納得できなかったわたしはGにさらなる説明を求めたがGはそれには答えずにわたしと伯父との関係を言い当てたのだ。

 パニック障害の薬(BZ作動薬)にはエリスパン/コンスタン/セルシン/セレナール/ソラナックス/デパス/メイラックス/リーゼ/レキソタン/ワイパックスがあるがエリスパン/フルジアゼパム(細粒0・1%1gも有り、0・25mg錠)以外は心身症(神経症)の薬すなわち抗不安薬として既に説明している。

 その外に三環系抗鬱薬やSSRIのいくつかがパニック障害の薬として処方されることもある。

 Gにその事実を知らされてわたしは再度伯父を誘惑する。

 ただしその誘い文句は以下のようなものだ。

 伯父さんの子供を産むわ。

 その子供を伯父さんにあげる。

 わたしは伯父の目の奥を見据えながらそう言う。

 すると伯父は悲痛な表情を浮かべて数秒間悩んだ末にわたしの提案を受け入れる。

 しかし伯父のそれは今のわたしには反応しない。

 機械的生理的には反応するが感情的な興奮はない。

 そのことが伯父を愛するわたしには痛いほど良くわかってしまい自分の行為の虚しさも蜻蛉に変わって自由に世界を飛びまわって交尾をした途端に死ぬ前の蟻地獄のように理解している。

 それでも伯父はわたしに嘘を吐いて行為の最中大いに感じているように振舞ったしわたしの方もあらん限りの過去の亡霊との体験を思い返し秘所をトロリと熱く濡らす。

 だがわたしと伯父との子供は予想通り簡単には産まれそうにないのでわたしたちの奇矯な関係はそれからしばらくの間続くことになる。

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