26 記憶
不意に思い出したが伯父ではなくて父に抱かれる母の姿は子供の頃に見たことがある。
正確にいえばそれは父に抱かれる母の姿ではないが。
夜中に小水の感覚を覚えて起きて用を足しすぐに寝ぼけて部屋を間違えてそれを見たのだ。
部屋に明かりはなかったが折しも煌いていた十六夜または猶予の月が妖しく絡まる四本の脚と四本の腕を露にする。
君や来む我や行かむの猶予に槙の板戸もささず寝にけり
父も母も色が白くてそれでも父の方が僅かに色があって月明かりの中でわたしは自分が知らない軟体動物を見つめている。
その軟体動物がわたしに気づいて二つの人間に分かれて父と母に戻ってやがて薄い毛布を下半身に巻きつけた父が手を繋いでわたしを寝室に送り届ける。
その間どちらも口を利かない。
代わりにわたしの鼻は栗の匂いを嗅ぎ付けている。
姉の隣に敷かれた自分の布団に寝かしつけられるとたった今見た光景の意味を探ることもなくわたしはそのまま深い眠りに落ちていく。
長い間思い出すこともなかった記憶だ。
翌日の父と母の行動やその他の出来事は鮮明に憶えているので自分が深く眠っている間に忘れ薬を盛られたのかもしれない。
その光景が不意に脳裡に甦ったのはGと二回目の紛いものセックスをしていたときだ。
わたしたち二人は全裸。
部屋数が多いわたしの家の母の祭の座敷とは違ういつもは使われていない小さな洋室のソファの上で互いの身体の不思議さを確かめ合うように蠢いている。
そのわたしたち二人の光景がある瞬間旧い窓ガラスにぼんやりと映る。
目を凝らせばその姿は裸のわたしとGだったが意識を遠ざけると別のものに変わっている。
それがわたしの記憶を繋ぐ。
無論子供と大人で大きさも違えば絡まり方も違う。
だが類似が与えられればそれでわたしには十分だ。
そこに意味など必要ない。
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