20 声

 最初に声が聞こえてきたのはレイプされた後だ。

 中学一年生の秋。

 わたしを付けまわす性欲の塊みたいな上級生が学校にいて油断していたら学校の帰り道で襲われる。

 それまでにも別の男たちに襲われた経験はあったがわたしはいつも防犯スプレーなどでそれを上手く切り抜けている。

 だがツキが無いときは徹底的に無いようでスプレーは利かずわたしは乾いた草に足を滑らせて転んで頭を強く打って冗談のように気を失う。

 最悪だったのはわたしの意識が戻ったときにまだ上級生がわたしの上に乗って腰を振っていたことだ。

 わたしは嫌悪でえずきたくなる。

 わたしの制服のスカートはたくし上げられたままだ。

 その下の下着はずり下げられていたが幸いなことにそれがわたしの両足を拘束していない。

 どういう手際で下着を脱がしたのか不明だがそれが纏わりついているのは片足だけだ。

 だからわたしは自分の両足が自由に使える幸運に気づく。

 そこで狙いを定めると両足をまわしその先でレイプ犯の頭を挟むと思いっきり勢いをつけて後方に投げる。

 不意を喰らってレイプ犯がわたしから抜けて無様な格好でわたしの足下に転がっていく。

 わたしが襲われたのは通学路の山道だったがそのときわたしがいたのはそこから僅かに外れた草深い小山の急斜面だ。

 レイプ犯は斜面に崩折れるとそのままずっと転がっている。

 わたしはすぐに起き上がると下着を足から引き抜いて制服の左ポケットに押し込み体勢を立て直すと近くに武器がないか目を凝らす。

 適当な大きさの石を見つけたのでそれを拾う。

 レイプ犯を見やるともう坂を転がり落ちてはいなかったが最初にわたしに投げ飛ばされたときにどこかを強く打つけたようで頭を振りながら喘いでいる。

 それでチャンスだとばかりわたしはそいつに近づいて行く。

 もちろんわたしは一気にそいつを殺す気でいる。

 脳天を勝ち割って脳漿を辺りにぶちまけてやるつもりだったのだ。

 その行為について考えるとわたしの胸が高鳴ってくる。

 石を持つ手にも力が漲る。

 が、そのとき声がわたしに告げる。

 今は止めよ!

 わたしがビクンと動きを止める。

 声の教えに耳を澄ませる。

 するとすぐさま声が告げる。

 今こいつを殺してもお前が罪に問われるだけだ。

 それでは余りにつまらぬではないか。

 声にそう指摘されわたしはたちまち冷静になる。

 けれども気持ちが治まらないのも事実なのだ。

 そこで声に相談すると死なない程度に殴りつけるのは構わないだろうと返答する。

 それでわたしはレイプ犯の上級生の後頭部ではなく右顔面を手にした石で思いっきりぶっ叩く。

 それから石をそいつの腹に勢いをつけて投げ落とす。

 ついで掌と足の甲を思いっきり靴で踏ん付ける。

 性器を踏まなかったのはそいつを殺さないための用心だ。

 最初ギャアアアと叫んだ上級生はその後全身を激しく震わせながら辺りを苦し気にのた打ちまわる。

 わたしはそれでも満足しなかったが声の勧めに従いその日はそれで引き上げる。

 その上級生が自殺したのはそれからしばらく経ってからだ。

 公式には自殺だったがそいつが自殺するわけがないことをこのわたしは知っている。

 格好がつかないからそいつはわたしにコテンパンにやられたことを誰にも言わないだろうと声が告げる。

 わたしの元にも警察は来たがそれは中学校のほぼすべての生徒のところにも来たのだから問題ない。

 崖から小さな湖に身を投げて上級生は死んでいる。

 第一発見者はたまたま近くを通りかかった養鶏場を営む男だったが年に数人は自殺者があるのでそうは驚かなかったと証言する。

 上級生は見事に水底の石に頭を割られて死んでいる。

 わたしはそこまで狙わなかったが声はそうなることまでお見通しだったのだろう。

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