18 反乱

 中学校に上がってしばらくすると父が死ぬ。

 わたしが殺したのではなく勝手に死ぬ。

 死因は膵臓癌。

 気づいたときには手遅れだ。

 全身に転移が及んでいる。

 けれども不思議なもので命の残りが少なくなると父がわたしに敵意を向けなくなる。

 その余裕がなくなったのかもしれないが本当のところはわからない。

 末期の父はとても気弱になっている。

 身体のあちこちが痛いと子供のように泣きながら母に苦しみを訴える。

 そんな父の訴えを母は一回に一度は聞いたがそれ以上は聞き入れない。

 母は父を愛していない。

 少なくとも綺麗ではない父を母は愛そうとはしていない。

 父が母と結婚したのは母の家族にそう決められたからだ。

 それ以外の理由はない。

 子供を二人生んだものまったく同じ理由からだ。

 一人では可哀想だからと二人目を身篭らされる。

 本当は男の子が産まれるまで子供を産めと言われていたようだがわたしを生んで身体の調子が悪くなる。

 当時も今も母はその理由を理解していないがそれは母の反乱だ。

 父を夫だと思っていたので父に貞節を尽くしたが父とセックスするのに飽きてしまっていたのだ。

 父ばかりが楽しくて母が楽しくないからだ。

 そればかりか辛く感じるところまで達してしまう。

 我慢の限界のレッドゾーンに針が傾く。

 母のその心が母の身体に異変を起こす。

 原因不明の嘔吐や眩暈が母を襲って身体的には浮腫みや傷が現れる。

 リストカットしたわけでもないのに手首にそれに似た痕跡がいくつも現れて消えなくなる。

 母は窶れて壊れた人形のようになり果てたがそこにはまた別の美が煌く。

 母の体調が戻ってくるのは父が母を抱くのを本心から諦めてからだ。

 その後は身体的には可能になったが父はもう二度と母の身体を求めようとはしない。

 母の身体に対する未練を断ち切ったのかどうかわからなかったが性欲の処理には別の方法を選んでいる。

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