第15話【抗描】


 或種の意固地なのかもしれないと思い始めている。

 何か私の運命を大きく動かす大事件が起こらなければ、

 何か世界が大きく動く特異点が生まれなければ、

 書くに値しないと。

 そう、思い込み過ぎているのではないか。

 私がどれだけ特別な人間だと謂うのか。

 24歳、独身。職業は……皆様御気付きでしょう。

 未だ大学生です。

 留年し続けて、就職活動もまともに出来ず。

 医大を目指す弟は、この前此処に書いた程絶望的な状況でもない。

 寧ろ私の方が、この先どうしようもないのです。

 正直、身の丈に合わない事をしたと後悔もしている。

 何かの間違いで、偏差値が29だったにも拘わらず、

 それなりの大学へ入ってしまった。

 こう謂う事が起こると、その後どうなるのか。

 私は楽観的に過ぎた。

 何時まで経っても単位が取れず、卒業出来ないなんて。

 そんな事態は考えつきもしなかった。

 だが私は同時に思う。

 また何かの間違いで、どうにか卒業出来ないだろうかと。

 意味の全く分からない授業。

 その黒板に書かれた文字、図、そして講師の発言。

 全てを記録しても、脳に全ては記憶されない。

 単位を取れても、成績は常に落第寸前。

 それでも、どうにか卒業出来ないだろうかと。

 卒業論文は教授の膝に縋り付いて、何とか通して貰えた。

 あと数単位。

 だが、その数単位の壁は余りにも高い。

 これまで単位の取り易い授業から受講し続けてきたが故に、

 もう難解な専門分野の授業しか残っていない。

 ……何をやっても不出来な人生だった。

 アルバイトは3ヶ月同じ職場にいられた事すら一度たりとも無かった。

 幼少期はピアノを無理矢理叩き込まれたが、

 今や歌えば皆耳を塞ぐ程の音痴。

 文才は御覧の通りだ。

 私は、社会に出て労働し、金を得て生活する、ただそれだけの事すら、

 まともに出来ない。

 何一つ、人間として生きる上で向いている事が無い。

 もっと早くに気付いて自殺するべきだったが、

 もう死ぬのも怖い。

 人の形をした不良品。

 それが私だ。

 せめて人から好かれるカリスマ性でもあれば良かったのだが、

 生憎私の嫌われ者としての才能は、石田三成に勝る自信がある程だ。

 さて、ここまで私は一切今の生活状況を書いていない。

 と謂うか、錆シリーズは続になってから、

 私が唯々無秩序に感情を言葉にして詰め込んでいるだけの、

 ゴミに成り下がっている。

 理由は謂う前もないでしょう。

 私よりも頭の良い読者の皆様ならば、分かっている筈です。

 故に私から、それでも読んで下さっている皆様へ言葉を贈らせて下さい。

 この無能者へ引導を渡してくれ。

 もうこれ以上苦しみたくない。

 早く終わらせてくれ。

 俺を見つけて、

 殺してくれ。

 小説家にもなれず、

 音楽家にもなれず、

 一人のまともな人間として生きる事すらも出来なかった、

 私を誑かし、惰生を彷徨わせる光明を握り潰して、

 絶望で終わらせて下さい。





 否。

 やっぱり死ぬのは怖い。

 だから、もしも俺を見つけてくれたなら、

 少しでいいので、相談をさせて下さい。

 私は真理が知りたいのです。

 人間の肉体、精神、社会、そして、

 人生の真理が。

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