第14話【転下】


 弟が医学部受験に失敗した。

 そして、元父親は我々と縁を切ってしまった。

 これから弟は予備校に入るから、金が要るというのに。

 家計は火の車だ。

 私も新たな仕事を探そうと足掻いてはいるものの、全く見つからない。

 求人サイトはクビになった事のある会社の名前で埋め尽くされている。

 金が必要だ。

 だが、私はもう、闇金にでも駆け込む以外弟を助けてやれる手段が無い。

 勿論あなたへ物乞いをするつもりもない。

 私の無料公開した作品も、プロデビューでもしない限り有料化なんてするつもりもない。

 それは私の思想が許さない。

 ……もう、これ以上は何も出来ない。

 とどのつまり、ドン詰まりだ。

 ただでさえそんな中、弟は緊張の糸が切れてしまったのか、

 学校に行かなくなってから2日も経たずに昼夜の逆転した生活になってしまった。

 私が幾ら文句を言っても生返事しか返さず、怒れば怒鳴り返され殴られる。

 そして彼は何にも構わず怠惰な生活を延々続けるのだ。

 私はどうすればいい?

 どうすれば彼のやる気を取り戻させる事が出来る?

 どうすれば私の新しい仕事は見つかる?

 私はもう、この現実に希望を見出せない。

 今度こそ心置きなく自殺出来そうだ。

 自分の絶望で死ぬ事は出来なかったが、弟や元父親への失望から死を選ぶ事になるとは思わなかった。

 このままでは私達は破滅だ。

 そして、これ以上私は苦しみたくない。

 自称受験生の弟に殴られながら「さっさと仕事をして金を入れろ」と怒鳴られ続ける生活なんて、

 真っ平御免だ。

 だが……、

 私は思う。

 もしも生き続けられる道があるとすれば。

 現状がどう変わったならば、私は生き続ける希望を抱く事が出来るだろうかと。

 弟が現役で何処かの医学部へ入学していたなら変わっていたのだろうか?

 或いは、私自身がもう少し能力に恵まれて、安定した職に就く事が出来ていれば。

 否。

 もしもの事を考えても、現実は変わらない。

 だがこのまま宙ぶらりんではいられない。

 塵屑の様に劣悪と化してゆく人生を生きてゆくか。

 或いは、今度こそ自らの人生を叩き潰すか。

 くだらない様に見えましょう。然し私にとっては、

 究極の選択。

 仮にこのまま生き続けたとしても、弟が医学部に入る希望どころか、大学へ入れる希望すらない。

 私はその時、何を得る?

 自称受験生に背中を蹴られ続けて、一生惨めにひもじく生きて、

 何を得る?

 そもさん今の私の人生だって、

 何を得ている?

 私は己の心の中の虚無主義や破滅主義に操られて、自傷行為を続けているだけ。

 ならば自殺する理由すら存在しない。

 そう自分自身へ言い聞かせながら、今日も私は求人広告の森を彷徨う。




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