第13話「暗寧」

筆を折りたい。

だが、それは赦されない。

私が赦さないが為に。

仕事、家事、就寝、仕事、家事、就寝、仕事、家事、就寝……。

そうしてこの一月を過ごした。

年の跨ぎに声高々と宣言した、新人賞の為の原稿には手を付けてさえいない。

昨日久し振りに原稿へ手を付けたが、書いたものは全て消した。

明らかに文章力が衰えていたから。

目も当てられない有様の文章と、過去の自分の、それでもまだ読めそうな文章。

二つを見比べて、

絶望した。

同時に、淡い希望を得られた。

今度こそ終われるかもしれない、と。

幸い昨年の夏に書き始めた別の原稿も未完のままだ。

それ以前に書いていたなろうの作品もカクヨムに投げた落選作もエタっている。

ここで終わっても、誰も怒らないだろう?

誰も私を求めていない今なら。

私自身ですら、失望して見捨てようとしている今なら。

……そう言って何度も々々も繰り返している。

少しずつ形を失い、誇りを失い、目的を見失いながら。

ベッドの中で夢を見る事も無くなった。

昔は色んな夢を見た。

邪神と契りを交わして狂戦士と成り、

亜人を率いて戦をし、

不死の修道士に追い立てられ、

ブロードウェイに憧れた少女を誑かし……。

今は暗黒の底に意識が溶け、がなり立てる時計に耳を刺突されるだけ。

現実の事だけで精一杯だ。いや、それすら満足に出来てはいない。

早く終わりたい。

だが私一人の力では終われない。

今日も今から闇の中へ溶けにゆく。

夢のない眠りについて、無意味な年月を重ねてゆく。

おやすみなさい。

願わくば、今度こそ夢を捨てられますように。

現実を満足に生きられる、それだけの力が備わりますように。

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